『白い巨塔』(2003年)を観れば着実に人間通になれる件

腕組みする医者

大人の本格人間ドラマが観たくなって、その重厚なストーリーが定評の『白い巨塔』(フジテレビ、2003年)をピックアップ。

軽い気持ちで観始めるとあっという間にドラマの世界に引き込まれ、全巻を観終えてしまいました。

話を簡単に説明すると大学病院での医師の権力闘争について描いた古典的なストーリーでありつつも、人間の野心や信念。そして善意。

つまり「人とはなんぞや」ということを問いかけている普遍的な物語が『白い巨塔』の魅力です。

魅力はリアルな人間ドラマ

この物語の主人公は財前五郎という男。

田舎の片親育ちで医学部は奨学金で卒業した苦学生。その男が野心を抱き、大学病院で出世街道を爆進。物語は財前が助教授から教授を目指す場面からスタートします。

財前はまさに絵に書いたような野心ある男。妻は産婦人科医の開業医の娘であり、財前の教授着任をバックアップ。野心を実現するために、経済的な支援を欠かしません。

財前派を作るために病院の有力者に工作。野心を実現するためには手段を選ばず。絵に書いたような賄賂政治を行います。

男たちのプライドが対立する!

しかし、財前の敵として立ちはだかったのが恩師の東教授。

退官にあわせてその地位を弟子の財前に譲るはずだったのが、財前の「人間性」に疑念を抱き、教授の座を別の人間に譲ることを画策します。

しかし「人間性」云々はあくまで建前。実際のところは、財前の医者としての技量に嫉妬を抱いた、というのが東教授の本心であったように思えます。

だからこそ、東教授が大学病院を退官、一人の医者としての立場に戻り、くだらない権力闘争から身を退いた物語の後半。東教授の表情は、実に誠実さの満ちた、善意ある医師の顔そのものとなっています。

大切なのは正義か、それとも

本作を語る上でどうしても避けては通れない重要人物が里見助教授。財前の真の友人であり、かつ「財前の対」となる役柄を与えられている男です。

里見は一言でいえば、まさに理想主義を体現したような男であり、ドラマの当初は、綺麗事ばかり言う偽善者的な存在。

「こんな男が実際周りにいたら迷惑だろうなぁ」というような、融通が利かない「堅すぎる」男の典型のような印象を与えます。

しかし、ドラマが進むにつれ、野心のためにはどんな手段もいとわない現実主義者の財前と、医療の理想のために実際の不利益も構わずに自分の信念を貫く里見。両者の対比がより鮮明に、私たち視聴者の胸に突き刺さります。

確かに、里見の理想論が、周りの人を傷つけているのも事実。しかし理想を忘れて現実を追っているだけでは、やがては何もかもが間違ったことになってしまう。

里見という人物が持つ純粋さ。そして、医師としての矜持と信念は、どんなときも、絶対に人として捨ててはならないものがあること。

損するとか得をするとか、そんなことよりもっと大切なものがこの世の中にはあることを、思い出させてくれます。

そこには人生のリアルがある!

このように、描かれている人間が非常に印象的かつ魅力的、かつ現実的なのがこのドラマの特徴。

個人的には、おえらいさんの奥様のおばさんとか、人間の醜さを凝縮したような濃い人達に泡を吹いてしまいます。

絶対に、身近にこういうおばさん(+その取り巻き)はいてほしくない。というかこの人間関係に関わりたくない。

それとドラマの話とは関係ないですが、東教授の娘役の矢田亜希子さんが本当に美人。財前の愛人役の黒木瞳さんも男性視点ではとんでもない美人ですが、個人的には矢田亜希子さんがこんな美人だったとは完全に盲点。

こういう濃い人間ドラマを観て、その人間像をあれこれ考えると自分も人として着実に年をとり、世の中の処世について少しは学んでいることを実感します。

最後に

ということで、ありきたりな言葉ですが、話が気になって仕方なくなるほどに夢中になる、とてもおもしろいドラマでした。

医者の世界関係なく、人間をより詳しく知るための本格ドラマを楽しみたい方には『白い巨塔』はおすすめ。

野心。信念。そして善意。「人間とはなんぞや」と思ったときこのドラマを見れば、きっと豊かな気づきを与えてくれることでしょう。

人間通になりたいあなたにおすすめします。