音楽素材販売サイトで使用権を売る前に確認しておきたいこと

どうしよう?と考える女性

2020年、音楽の使用権(ライセンス)を売ることができる音楽素材販売サイトを知ったことをきっかけに音楽を作るという活動を再開。そして2023年、音楽素材販売サイトでの個人的な目標であった登録作品数1000に到達しました。

今後は音楽素材販売サイトだけでなく新しい挑戦をしたいと考え様々な音楽配信サービスについて調べていたのですが、どうすべきか迷ったのが「音楽素材販売サイトに登録した作品」です。

というのは、音楽素材販売サイトに登録した作品の扱い方は、後述しますがある意味で扱い方に注意が必要だからです。

そこでこの記事では、音楽素材販売サイトで楽曲を登録し使用権(ライセンス)の販売を検討している方に向け、事前に理解しておきたい重要なポイントをシェアしています。クリエイターにとって自作品をどのような形で公開していくか、という点はとても大切な話です。参考になれば幸いです。

記事の作成にあたっては該当するサービスのサポートに問い合わせを行い疑問点を確認した上で記事を作成していますが、内容の正確性を保証するものではありません。

【結論】はじめに

結論から端的にご紹介します。作品を企業のサービスを用いて公開する場合、利用するサービスによっては他のサービスの利用に実質的な制限がかかる可能性が高い、というのがこの記事の結論です。

次のような具合です。

1.著作権管理サービスを利用した作品

→音楽素材販売サイトへ登録し使用権を売ることができなくなる可能性が高い

2.音楽素材販売サイトに登録し「一度でも」販売状態になった作品

→著作権管理サービスの利用ができなくなる可能性が高い

詳しくご紹介します。

著作権管理サービスを利用した作品

作品の著作権を第三者に委託し、使用料金を代理で回収してもらうことができるサービス。それが著作権管理サービスです。

著作権管理といえばJASRACが有名ですが、TuneCore Japanをはじめニコニコ(ドワンゴ)の「楽曲収益化サービス」などでも著作権管理サービスを利用することができます。

JASRACの場合、曲単位で管理を依頼することはできず「所持しているすべての作品及び今後作られる作品も管理委託」の対象となります(JASRACホームページ、「よくあるご質問」より)。

そのため、音楽素材販売サイトにクリエイター登録しライセンス販売を行う場合は注意が必要です。たとえばAudiostock(日本の音楽素材販売サイト)はクリエイター規約の第2条にて「JASRACと信託契約を結んでいるクリエイターは登録ができない」と定めています。

その理由は「クリエイターが所持するすべての作品及び今後制作される作品の著作権がJASRACの管理対象となるから」であると考えられます。

「現在JASRACに著作権管理を委託してはいないが将来的にはすべての作品をJASRACへ委託することを想定している」という方の場合、音楽素材販売サイトへの作品登録は慎重を期す必要があるでしょう。

一方、TuneCore Japanやニコニコ(ドワンゴ)のように「曲単位」で著作権の管理を依頼できるサービスもあります。

例えばTuneCore Japanの著作権管理サービスはJASRACに直接委託する場合とは異なり、著作権の管理を曲ごとに行うことができ、管理の届け出をクリエイター自身が曲を選んで行うことができます。

そのため、Aという作品は著作権管理を依頼するがBという作品はしない、といった柔軟な対応が可能です。そして著作権管理の依頼はTuneCore Japanの音楽配信サービスを利用していなくても可能です。

TuneCore Japanの著作権管理サービスは、クリエイターから期間譲渡された著作権を、TuneCore JapanがJASRACなどに徴収を委託する形になっています。そして著作権の管理対象地域は国内に限定されます。

またTuneCore Japanで著作権管理を申請した作品は「収益徴収の対象」となるため、音楽素材販売サイトで楽曲の使用権を販売することはできなくなります。著作権管理サービスを利用しつつ音楽素材販売サイトでも使用権を売りたい場合は、適切にサービスを使い分ける必要があります。

例)

・音楽素材販売サイトで使用権を売る作品→著作権管理対象として「申請しない」

・著作権管理サービスに登録する作品→音楽素材販売サイトに「登録しない」

ちなみに著作権管理サービスについてTuneCore Japanに問い合わせを行いましたが、質問に対する回答は問い合わせから2時間後にありました。その返信スピード、回答の的確さ(知りたいことに答えてくれる)は特筆すべき内容です。

サービスの質や信頼性はサービスの内容それ自体だけでなく、実はサポートといった目に見えない部分に出ると個人的には考えています。ユーザーが「知りたいこと」「疑問に感じたこと」を質問できその回答を得ることができるサポート体制がTuneCoreに用意されていることは確かです。

音楽素材販売サイトに登録し「一度でも」販売状態になった作品

自作曲の使用権を販売することができる音楽素材販売サイト。日本ならAudiostock、海外ではpond5やMotion Elements、AudioJungleが知られていますが、Audiostockでのライセンスの販売に関して、クリエイター規約の10条(クリエイターの遵守事項)に次のような趣旨の内容が記載されています。

「ラインセンスを販売している作品を使用するユーザーの利用を妨げる行為をしてはいけない」

この文言が意味する内容を具体的に指すなら、

1.Audiostockでライセンス販売している作品を著作権管理サービスを利用し著作権の管理を第三者に委託する(=著作権の管理を委託された第三者がAudiostockでライセンスの使用にお金を払ったユーザーの楽曲使用に料金を請求する)

2.外部サービスを用いAudiostockに登録している作品の「YouTube Content ID」を取得し収益化する

といった行為がわかりやすいでしょう。

音楽素材販売サイトはラインセスフリー、すなわち「一度お金を払えば著作権の問題なしに規約の範囲内で自由にその作品を使うことができます」というメリットをサービスの特徴としています。

にもかかわらず、実際にAudiostockで購入したライセンスフリーの作品を使ったところ著作権侵害の連絡が来たらどうなるか?ビジネス上の大きな問題となるのは想像に難くありません。

これはルールとして当然の話なのですが、作品を登録するクリエイターとして音楽素材販売サイトに作品を登録する重要な意味を予め理解しておく必要があります。それがこちらです。

一度でも音楽素材販売サイトでライセンスを売った作品は著作権管理サービスを利用できない→クリエイター側は作品の活用用途が(実質的に)制限される

音楽素材販売サイトの規約には「作品の著作権はクリエイターが所持する」と記載されていますが、「一度でも」音楽素材販売サイトに登録した作品は第三者に著作権の管理を委託することができなくなります。

規約では確かに著作権はクリエイターが保持しているかもしれませんが、活用用途に関しては実質的に限られた範囲内での活用が可能となります。具体的には音楽配信サービスや他の音楽素材販売サイトでの並行販売が考えられます。

例)Audiostockで販売している音楽素材をpond5やMotion Elementsで売る、音楽配信サービスで配信する(ただし著作権管理サービスの利用はできない)

この点を踏まえ、音楽素材販売サイトにどの作品を登録してどの作品をあえて登録しないのか?考えた上でサービスを利用する必要があります。特に、「この曲は自分にとっての最高傑作だ。音楽配信などを用いて、地道にプロモーションしていきたい」という作品は特に、公開方法の吟味が重要となるでしょう。

利用規約は必ず確認する

規約の問題はややこしいですが、約束事を知らずに行動を起こした結果、自分自身の進みたい方向、目指したい方向とズレてしまうことが起こり得ます。そのため、作品を扱うサービスを利用する前に必ず、利用規約に関しては全文を熟読しておく必要があります。

この記事でご紹介しているとおり、「あるサービスを利用することによって(実質的、半永久的に)作品の運用方法が限定されてしまい、他のサービスを利用することができなくなる」という場合があるからです。

「一度でも公開した作品は進路変更をしようとしても制限がかかる(可能性がある)」という点を知った上で、自分はどのような形で作品を公開したいのかを検討し、サービスの特性を理解した上でサービスを使い分ける必要があります。

「JASRACオンリーで著作権管理を依頼したい」という方は他社の著作権管理サービスや音楽素材販売サイトに曲を登録することで、JASRACの利用が難しくなる可能性があります。その逆もしかりです(JASRACに管理委託することで音楽配信や音楽素材販売サイトのサービスを利用できない可能性があります)。

現在はクリエイターとして選べる選択肢が広がっています。特定のサービスを利用する前にまず自分自身の作品管理及び公開に関するスタンスを考えることの重要性は、ますます高まっています。

「自分はどんなスタンスで音楽活動したいのか?」を確認する

音楽素材販売サイト。音楽配信サービス。プラットフォームによってできることはかわります。

音楽素材販売サイトは需要がある(動画やCM、PVなどに使うことができる)音楽が求められており、個性を追求した音楽や実験的な音楽を公開するのは年々難しくなっています。

その一方、ユーザーが求めるものにマッチした音楽を置いておくことで、それが使用料という形で評価してもらうことが可能です。ただし歌ものを公開するには準備(歌詞の記入など)の手続きの煩雑さや条件など熟考すべき点があります。

また、音楽素材販売サイトによっては審査が難化する傾向があり、作品の登録数も膨大です。クリエイター同士の競争が非常に激しくなっています。

一方、音楽配信サービスを用いて作品を公開する場合、配信料についてはサービスによって異なるので割愛しますが、原則的に自分が出したいものを出すことができるという点は大きなメリットです。

ここで強調したい点はどちらが良い悪いという話ではなく、

「それぞれサービスに特徴があり、Aという作品をBというサービスを使えばCというサービスで使えなくなる場合があるという可能性を理解した上で作品の出しどころを考えることが必要」

ということです。

ではどうやって作品の発表法を適切に考えるか?その前提となるのが自分自身の音楽活動のスタンス。自分が作った音楽をどこで発表し、どのような形で未来へつなげていきたいのか?行動を起こす前に明確化しておくことが大切ではないでしょうか。

個人的には、音楽素材販売サイトではインスト作品のみを販売しているが、「仲間と一緒に歌ものを出したい」という場合は音楽配信サービスを選ぶなど、柔軟に対応していくことが適切だと考えています。

最後に

以上、音楽素材販売サイトで使用権を売る前に知っておきたいことをご紹介しました。

私自身、2020年に音楽素材販売サイトの存在を知ったことで曲作りを再開した立場なのですが、当時は音楽配信サービスは存在していたものの、曲単位での著作権管理サービスなどの選択肢はなかったと記憶しています。

現在では、音楽配信やYouTube Content IDの取得、そして著作権の管理が無料でできるサービスなど、選択肢は豊富です。ただし「これを使えばすべてOKです」という話ではなく、どのサービスにもメリットとデメリットがあります。

動き始める前にそれらを理解しておくことが大切ではないかと思い、この記事でご紹介しました。少しでも参考になれば幸いです。