いつの時代も、本当に面白いのは人間の営み。
小田島雄志著『シェイクスピアの人間学』(新日本出版社)の読書感想です。
この本について
日本におけるシェイクスピア研究の第一人者、小田島先生によるシェイクスピアの入門書。
なぜシェイクスピアの劇がいつの時代も人の心をとらえる普遍性があるのか、劇で描かれている人間像を通じて見えてくることなど、もっとシェイクスピアを知りたくなる一冊となっています。
以下、本書の読書メモです。
シェイクスピアが描く人間(P12)
シェイクスピアはありのままの人間を描く作家。人間を関係性のなかで捉え、人間が持つ様々な感情をありのまま描く。
そこには「~であるべき」といった堅苦しいものはなく、様々な感情を持つ人間の自然な姿が描かれている。
私たちはシェイクスピアの劇のなか、リアルな人間の姿を見出す。だからシェイクスピアの劇は面白い。
シェイクスピアの人間観(P55)
シェイクスピアは金持ちの商人の息子として幼年期を過ごすが、親の没落によって、人間の表裏を目の当たりにする。
人間には善もあり悪もあって表もあれば裏もある。「人間とは多面性を持つもの」という人間観を持っている。
お金が人間関係をダメにする理由(P104)
「ロミオアンドジュリエット」で登場する「それ、金だ、人の心には毒よりおそろしい毒」というセリフがある。
お金は便利だけれど、人間関係は、このお金によって悪くもなる。
人と人との関係は愛情や信頼を交換している。でも愛情や信頼はお金では交換することができない。お金とモノ、サービスは交換できるが、人間的な関係は交換できない。
お金でそれらを交換しようとしても、お金が毒となってしまう。
人間の複雑さについて(P135)
人間には、表面を見ているだけでは見えない、一歩引いてみると見える裏の姿がある。
どんなに見た目が良好な紳士であっても、腹の中は何を考えているかは誰にも分からない。「人は笑顔でほほえみながら、同時に悪党になれる」存在。
人間には、そんな複雑な多面性がある。
自分を知りたいときは周囲を見る(P146)
周りの人は自分の姿を移す鏡。時として、自分よりも、他の人の方が、自分について冷静に見ていることもある。
人は絶頂期から下降期に入ったとき、自分を見る目が歪み、自分を見失いやすい。自分を見失いそうになったら、周りをよく見ること。
周りが自分の正しい姿を見せてくれるかもしれない。
感想など
紀伊國屋書店で本を散策中に発見、「人間には幸福もあれば不幸もある、人間には表もあれば裏もある」という帯に興味を惹かれ手にとった本。
シェイクスピアといえば「ロミオアンドジュリエット」や「ベニスの商人」、「リア王」、「オセロー」くらいしか知りませんでしたが、「生きるべきか死ぬべきか、それこそが問題だ」など、いろんな名言の宝庫であることは知っていました。
この本を読むと、なぜシェイクスピアが長く読み継がれているのか、シェイクスピアの劇のどんなところが良いのか、その魅力が分かりやすく伝わってきます。
「教養や人間観を深めるためにシェイクスピアでも読みたい」という方は、この本を足がかりにして、シェイクスピア劇を読むと、より理解が深まると思います。
入門書として最高に面白い本でした。