結局、最後に運命を分かつのは運。『武田氏滅亡』の読書感想

武田氏滅亡 (角川選書)

英雄か凡夫か。その真実はこの本を読めば分かる!

平山優著『武田氏滅亡』(角川選書)の読書感想です。

この本について

2016年大河ドラマ『真田丸』にて時代考証をした著者による、武田勝頼の滅亡を緻密に検証した大著。

武田勝頼というと、一般的なイメージにおいては、父信玄から家督を継いだものの長篠の戦いで織田・徳川に惨敗。

滅亡した「愚かな武将」というイメージがあると思うのですが、果たして、本当に勝頼は愚かな武将だったのか?

本書では歴史の最新研究をもとにその真実を緻密に検証。勝頼という男がどんな人物だったのか。

読後は勝頼の評価が一変する本になっています。

勝頼滅亡の原因

まず結論から言うと、「武田勝頼が国を滅ぼした無能な男であった」という一般的なイメージは完全に誤り。

むしろ、

「謙信、信長、家康、そして氏政。名だたる戦国大名たちからも一目置かれ、決して侮れない優れた武将だった」

というのが本書が明かす勝頼の真実。

長篠の戦いの敗北以降、徐々に衰退したイメージが強い勝頼ですが、実際のところは長篠の戦いの敗北の後も体制を立て直して成功。

御館の乱が起こる頃には父信玄以上の広い領国を得るまでに至っています。

にも関わらず、なぜ滅亡という結果になってしまったのか、本書ではその原因が丁寧に説明されています。

本書を読むと、

1・御館の乱による外交の失敗

2・高天神城の陥落

この2つが、勝頼の運命を大きく影響を与えた出来事であることが、ひしひしと実感できます。

そして、勝頼自身が戦国大名としていかに勇猛果敢で優れていたか。しかし不運を背負い、最後までその不運に足を囚われ続けた男であるのか。

この本を読めば、そのことが、より強く実感できます。

新府城の件も、裏切り者による卑劣な献策による可能性があることが分かります。)

感想など

700ページ以上もある大著でしたが、10日かけてじっくり読了。

控えめに言って、心が大きく動かされた本でした。

特に、本書の終盤、勝頼が滅亡する1ヶ月の間までの出来事は、本当に「どうしてこうも運に見放されるのだろうか?」と思わずにはいられない。

そして田野での最後の戦いの描写、北条夫人との別れの場面では、まるで最期の別れの瞬間が鮮やかに目の前に浮かび上がるような、そんな感覚を覚えました。

そのときの感情を私の貧しい文章力では表現することができませんが、淡々とした客観的な文体でありながら、力強い何か、感情を強く揺さぶられる何かがあったのは確かです。

本書は歴史の真実を明らかにせんとする本ですが、個人的には、人の生き様、信条について強く考えさせられた本でした。

勝頼滅亡のトリガーとなった木曽義昌、身内でありながら真っ先に武田を裏切った穴山梅雪。そして最後の最後、土壇場で裏切った小山田信茂。

裏切り者がいる一方、勝頼に従って最期のときまで戦い抜いた土屋昌恒、信玄以来の恩を果たそうと田野に参陣した小宮山内膳。

そして、逃げることができたにも関わらず、夫との最期を選んだ19歳の北条夫人。

彼らの生き様を考えるとき、人として何が大切なのか、名誉とは何なのか、本書を読後、しばらく考え込んでしまいました。

追記

裏切り者の末路が明るくないのはいつの時代でも同じ。

小山田信茂は真っ先に処刑され、穴山梅雪も農民に殺され、木曽義昌も息子の代で改易されています。

特に穴山梅雪(長篠でも勝手に戦線離脱)に小山田信茂の裏切りはエグい。それゆえに、歴史を学び出した者たちから永遠と「卑怯な裏切り者」と思われ続けます。

このことを考えると、「名誉」という言葉の重みを実感させられます。

北条夫人について

とくに、北条夫人の最期(P674~)については、本当に心を動かされます。

北条夫人は北条氏政の妹。甲相同盟のためにわずか14歳で勝頼のもとに嫁ぐことになりますが、御館の乱のため甲相同盟は破綻。夫人は運命を翻弄されていきます。

状況が悪化するなか、夫人が「勝頼を守り給え」と祈りを込めた願文が武田神社の博物館に残されていますが、それを初めて読んだときは衝撃的でした。

その真摯な人間性というか、想いの清廉さというか、そういったものが伝わってきたのを今でも覚えています。

そして実際、勝頼は北条夫人を北条家に返そうとするものの、夫人は最期まで夫との道を選んだその生き様を思うと、胸が熱くなり、感情が強く揺り動かされます。

勝頼、信勝、そして北条夫人の肖像画が災難を逃れて後世に伝わっていますが、別の時代に生まれていたなら、きっと幸せな夫婦になっているに違いありません。

最後に

個人的にはずっと、武田といえば信玄ではなくて、勝頼に関心を持っていました。

理由は分からないのですが、「武田を滅ぼした愚かな将」という勝頼の評判に対して、「本当にそうなのだろうか?」という漠然とした思いを拭い去ることができませんでした。

本書を読んで、納得。結局、運に見放されたらどんな勇将も末路は同じなのかもしれません。

そもそも家督を継いだ段階からマイナススタート。諏訪勝頼として生きていくはずが武田勝頼にならざるを得なかった。

武田家が豪族連合という性質上、それはとてつもないマイナス。つまり最初から無理ゲー状態を強いられての武田家登板なわけです。

それに加え、敵は信長、そして家康という歴史上の大偉人。ただの凡将が、この2人を相手に9年も持つわけがありません。

そして、実際、信長も家康も、勝頼を侮ることなく慎重に慎重に対応していたことが分かります。それだけの男だったわけです。

しかし運がなかった。だからこそ、勝頼という男には常に、「不運の」という枕詞がつきます。

歴史は結果主義なのかもしれませんが、光は当たるべきところにきちんと当たってほしいもの。

この本を読んで、もっと勝頼の真実を知ってくれる人が増えて欲しい。そう強く願います。

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