「絆の病」が問題行動の根本に。
岡田尊司著『愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち』(角川選書)の読書感想です。
この本について
現代人が抱える人間関係の問題を「愛着」という観点で考察した本。
人が成長して生きていくために必要なのが、養育者との安定した愛着関係。
愛着が育っていないとどのような問題が起こってしまうのか、愛着の問題がもたらす様々な影響力が恐ろしさを感じる内容になっています。
以下、本書の読書メモです。
愛着とは(P28)
愛着とは人と人とをつなぐ絆。愛着は母親などの養育者との間で結ばれ、愛着が育まれることで、子どもは他の人と結びつくことができる。
小さい頃に育まれた愛着を基礎に人は成長し、対人関係や仕事など、様々なところで影響を及ぼす。この意味で、「三つ子の魂百まで」は正しい。
絆の崩壊(P39)
愛着という絆が育まれないことによる様々な問題について。
愛着を持たない子どもが成長すると、対人関係の不和や精神疾患など、様々なところで問題が生じるようになる。
愛着はあらゆる対人関係の根本であり、愛着の影響は社会生活だけでなく、結婚生活や子育て、地域の共同体とのつながりにまで影響が及ぶ。
近年、愛着の問題を持つ人々が増えており、愛着をベースにした夫婦関係や子育てで問題を抱える人が増えている。
初婚年齢が高くなっていること、未婚率や離婚率の上昇、家庭内暴力や児童虐待なども、その一環。根本には、愛着の問題がある。
愛着の形成と臨界期(P53)
子どもは、母親との愛着を築くことによって、その後のあらゆる対人関係の根本としていく。
愛着形成は養育者なら誰でも良いわけではなく、母親が果たす役割は非常に大きい。
母親が子どもに対して安定した愛着を持つことによって、子どもも安定した愛着を持つことができるが、何らかの問題によって、それが難しい場合、子どもが愛着を持つことができず、不安定な影響を受けてしまう。
母子が愛着関係を築くにも臨界期があり、子どもが成長していくにつれ、安定した愛着を持つのは非常に難しくなる。
不安定な愛着の影響(P71)
養育者との間で愛着形成に失敗した子どもは、社会的、情緒的、認知的、あらゆる部分で悪影響を受けていく。
人間関係に問題を抱えたり、ストレス耐性に弱かったり、精神疾患を抱えやすかったり、不安定な愛着の問題が、生きづらさの原因になっている。
ネグレクトする親と子どもへの影響(P91)
親が子どもに関心を払わず、子どもを放置するネグレクト。
子どもの言動に反応が乏しく、十分に構われず親に育てられた子どもは、他人をあてにしなくなり、他人を求めるかわりに、自分で自分を紛らわす行動や自己刺激的な傾向を強める。
また、親から共感的な言動なしに育った子どもは、人への共感性が育たず、他の人からも共感的に扱ってもらうことが少ない。そのことが、更に非共感的な姿勢を強める原因になる。
それがやがて、反社会性パーソナリティ障害など、他者に対して冷酷で、搾取的な態度へとつながっていく。
愛されることは人格の発達に不可欠(P123)
愛されることは、社会性を発達させる上での根幹的な働きを果たす。愛されることで、心の理論や共感性を発達させ、他者と良い築く根本的な力になる。
だからこそ、適切な世話をされなかった子ども、愛されなかった子どもは、その後の人生で、様々な問題を抱えやすい。
ADHDのプラスとマイナス(P179)
ADHDには独自の遺伝子があり、新奇性探究心を強める働きがある。
そのため、安定した環境や固定化された状況において、ADHDはマイナス面になるが、変化の激しい環境や流動化していく状況に対処しやすいという強みがある。
ADHDの遺伝子を持つ民族は、過去民族大移動の経験を持つ民族がそうでない民族に比べて多いことから、ADHDの持つ遺伝子が、民族の危機において、新天地を目指し行動する原動力になった。
愛着崩壊の連鎖(P183)
愛着の問題は世代間連鎖する。
子どもに無関心であったり、ネグレクト傾向があったり、愛着に問題を抱えた人間が親になると、その子どもも愛着の問題を抱えやすい。
子どもだけでなく、パートナーとの関係も上手くいかなくなり、次第に孤立してしまう傾向がある。
現在は核家族化が進み、愛着に問題を抱える人が増えており、ますます、愛着の問題の連鎖が広がっている。その影響は、社会福祉や教育、様々なところに影響を与えている。
自己愛的ライスタイル(P187)
愛着に問題を抱えた人間は、他者との共感的なものを求めるより、自己愛的な生き方を強めていく。
他者のために動くことに喜びを感じず、自分のために生きることでしか、満足感を得られない。自己実現が価値であり、生きがいになる。
そのため、人のためにエネルギーを使うのを嫌い、時間やエネルギーを自分のためだけに使いたいと考える。
時間を奪われることは邪魔以外の何ものでもなく、子育てのように大切なことでさえ煩わしく感じ、自己実現や自己皆楽を優先してしまう。
保育所は母親のかわりにはなれない?(P189)
小さいときから保育所に預けられた子どもは、そうでない子どもより強い回避型の愛着傾向を示す。
保育所は集団保育という制約上、子どもの心理状態まで配慮した対応が難しい。そのため、子ども一人一人への感受性が、母親一人の育児に比べ、低下してしまう。
とはいえ、長期的な面で見ると、本当に大切なのは、保育所よりも、母親が子どもと過ごす時間、家庭が安定しているか、共感的な言動があるかが、愛着形成で重要になる。
ただし、長期間保育所で育てられた子どもは、12歳の時点で、保育所育ちの子どもの方が、学業成績や語彙の豊かさ、行動上の問題が多く見られる傾向がある。
保育所という環境は、子どもにとって望ましい環境ではなく、特に1歳未満の子どもを長時間保育所に預けることはその子どもの愛着を不安定にするリスクがある。
3歳までは子育てに専念するのが理想(P212)
愛着の問題は、子どもの人生一生を左右する持続的な問題にも関わらず、その影響が十分理解されているとは言いがたい。
「三つ子の魂百まで」の言葉通り、幼い頃の養育環境は、子どもの人生に持続的な影響を与える。
近年では0歳時保育など、生まれてすぐに保育所に預けられる子どもも多いが、潜在的な遺伝リスクや他の問題が絡まったりすると、状況は難しくなる。
愛情不安や問題行動を抱えるリスク、知的情緒的発達の遅れなど、様々な問題が起こる可能性がある。
このため、3歳までは子育てに専念するのが望ましいが、どうしても子どもを預けて働かなくてはいけない場合、子どもと一緒に過ごす時間は、スキンシップや応答的関わりを大切にする。
子どもに問題行動が見られたときは、関わり不足、愛情不足のサインを見逃さず、早急に対応する。早い段階なら、まだやり直せる。
オキシトシンリッチを目指すために(P241)
子育て、異性との関係が上手くいく人は、スキンシップや人との情緒的交流がスムーズにできる人であり、オキシトシンリッチな人。
愛着に問題を抱えた人は、スキンシップや人との交流、愛情表現が苦手でぎこちない。
そこで、身近な付き合いや習慣のなか、意識的にオキシトシンが豊かに分泌される行動を起こしていく。そのことによって、社会性や好感度が高まり、人間関係がスムーズになる。
具体的には、家族や同僚に笑顔を作って挨拶すること、人との会話では「共感」を意識して会話をすること、冗談を言って意識的に人を笑わせるなど、そういった身近な行動から変えていく。
ペットを飼って世話をするのもいい。
世話したり、可愛がる対象を持つことで、傷ついた愛着を癒やし、共感システムを蘇らせるきっかけになる。
感想など
「三つ子の魂百まで」の理由が分かる本。
うつや依存症、人格障害、近年様々な「心」の問題がクローズアップされるようになっていますが、「人間関係や心の問題で悩む人が増えている根本には愛着の問題がある」という本書の主張には説得力があります。
そういえば、あるビジネス本(CDだったかな)を読んでいると、
「親との関係が悪い人は幸せになれない。」
「いかに親との成熟した関係を持てるかがその人の成功を決める。」
「社会で経験する悩みや問題は親との未解決の問題の繰り返し。」
という話が出てきましたが、これももしかしたら愛着の問題が絡んでいるのかも。
私たちは生まれてから親に育てられ、そして成長して様々な経験をし、大人になっていきます。
その成長の過程において、考え方、行動、メンタル的なもの、人間関係、その土台は親との関係が根本にあって、それを意識しないと、無意識に振り回されてしまうことも。
親は最初の人間関係。だからこそ、その影響力は、思いのほか、強いものなのかもしれません。そんなことを感じた本でした。
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