韓非子の知識なくして人間通なし。
中島孝志著『30歳から読む韓非子 思いどおりに人を動かす権謀術数のすべて』(マガジンハウス)の読書感想です。
この本について
社会の酸い甘いが多少分かりかけた30代以上の社会人のための韓非子論。
「人間は本来悪である」と説いた韓非子の教えを、実社会で生かすヒントが満載の内容になっています。
以下、本書の読書メモです。
人を動かすなら欲を知る(P2)
人を動かすリーダーを目指すなら絶対に知っておきたいこと。それは、「人は欲の動物である」こと。
人は欲によって動き、協力し、裏切る。人の欲ついて、敏感になること。そうすれば、人の動かし方が見えてくる。
ルールなき組織は崩壊する(P21)
トップの役割は、信賞必罰、確固たるルールを作り、それを実践すること。
トップがその場その場の気分でコロコロ言うことを変える組織は秩序がないに等しい。やがては組織が機能しなくなる。
人望とは(P56)
本当に人望のある人は、人気を取ろうなんて考えず、相手に自分を合わせようとは考えない。
人望がある人は、人から信頼を集める人。人望には尊敬と信頼が必要であり、人徳から生まれる。孤立しても、徳で人を惹きつけるため、必ず助けてくれる人が現れる。
経営者の悩み(P77)
経営者が悩むのは人材のこと。
中小企業の場合、最初から優秀な人材を確保するのが難しい。そのため、自前で人材を教育していく必要がある。
が、人材を育てるにあたり、
1・育てた部下が裏切らないか?(優秀だが育てると寝首をかく人材)
2・育つ見込みがない部下を育てていないか?(育てても育たない無能な人材)
という悩みに直面する。
この問題を解決するには、結局経営者自らが、自分の人を見る目を養うほかない。人材育成に失敗したら、それは自分の責任に原因を帰するべき。
要職につける人間の順位(P83)
プロシアの名参謀、モルトケによる要職につけるべき人材の優先順位ついて。
1・第一に能力が高く欲がない人間。
2・第二に能力も欲もない人間。この人間は野心も能力もないので絶対に裏切らない。
3・第三に能力も欲もある人間。力があるがゆえ、結果も出すが力があるがゆえ、独善的になる。また、このタイプには裏切られるリスクあり。
リーダーを騙す悪い側近(P97)
君主の誤りは、近くにいる佞臣にたぶらかされ、「裸の王様」にされてしまうこと。
権力を持つ君主は孤独。それゆえ、周囲の人間を心から信頼することができない。「孤独」という心の隙をついて悪い家臣が擦り寄ってくる。
韓非子による、悪事を企み君主をたぶらかす方法。
1・同床
君主の近くの女を利用する方法。
狙い目は貴婦人や愛人など君主お気に入りの女性。常に近くにいるがゆえ一番君主の心をつかみやすいので、君主をたぶらかしやすい。
ゆえに、君主は、権力を持てば持つほど、擦り寄ってくる女に用心する。
2・在傍
側近。右腕の家臣や宦官など、君主の側にいる家臣。君主であれ、側にいる人間の話は耳に入りやすい。
3・父兄
権力者と言えど親族の影響は大きい。権力者の親族をたぶらかせば、権力者を動かすこともできる。
4・養おう
権力者に災いが続き、心が折れかかっている隙を狙い取り込むこと。権力者であれ、心が弱るときは、もろくなる。その隙を狙ってくる。
5・民萌
太鼓持ちやご機嫌取りのこと。現代のイエスマンたちがこれにあたる。
6・流行
雄弁、口達者で君主を説得すること。
7・威強
武力など力を利用すること。
8・四方
海外など、外の強い勢力を利用すること。
人を説得する方法(P118)
人を説得するなら相手の目線に立つことが絶対に不可欠。
相手が分かる言葉を使い、相手が望んでいることは何なのか、そこを見抜くこと。相手の欲が分かれば、説得もしやすくなる。
過去は未来に関係ない(P141)
今までの人生がどうであったのか、それは未来には全く関係ない。
未来は今日の心がけ次第で変えることができる。失敗していようが成功していようが、未来は自分で作ることができる。過去にとらわれることなく、新しい第一歩を踏み出すべし。
人間通になるために(P157)
実学とは一流の人に会うこと。人は人からたくさんのことを学ぶ。
人にとって最高の勉強相手は人。多くの人に会って、学ぶこと。それが人間通になるための鉄則。
感想など
韓非子の教えを著者が分かりやすく解説したビジネス書風の本。
表に出て、「人は本来悪だよ、人は裏切るもんだよ」なんてことを言うのははばかられますが、世の中、人の中には、善だけとは言えない、悪のようなものがあるのも現実。
嫉妬や妬みなどのダークサイドの感情が、人間関係にうごめき、それゆえに、人間関係は一筋縄ではいかない難しさがあります。
「人は本来が善で、皆がいい人なんだよ、人は信頼し合って生きていくんだよ」という思想はそれはそれで耳心地が良いですが、何事もケースバイケース。
現実社会を生きる私としては、柔軟に考えて、韓非子のような、「耳障りが良くない」考え方も、積極的に学びたいと思います。
マキャベリの『君主論』もそうですが、往々にして真実は、「それを言っちゃおしまいよ」的なところがあるため、とかく人から眉をひそめられ、敬遠されるところがあります。
でも、その言葉は現実社会を見渡してみると、「確かにそうなんだよな」と思うところが多々あり、実用的で役に立つ考え方が満載です。
表に口に出さずとも、家でひっそり勉強しておくことで、世の中のいろんな場面で、その教えが役に立つときが来ます。
それにしても、人間のダークサイドを前提とした処世術を説いた韓非子ですが、それを説いた本人が、友人の嫉妬による誹謗によって非業の死を迎えるのは、何とも皮肉なことです。
世の中に陰陽あり、光だけの力しか知らなければ、闇の力に不意打ちを食らってしまいます。
蛇の道は蛇、毒には毒、人生という航路を進んでいくために、ライトサイドの知恵だけでなく、ダークサイドの知恵も借りたいものです。