「お前のせいだ!」と理不尽に糾弾されないための理論と知恵。片田珠美著『被害者のふりをせずにはいられない人』(青春新書)の読書感想です。
『被害者のふりをせずにはいられない人』について
被害者意識をたてにして「あいつが悪いこいつが悪い」と他者を糾弾する人の深層心理を心理学の視点で理解する本。
世の中、いわゆる弱者が必ずしも本当の弱者ではなく、実はとてもつもない強者であることがしばしばあります。
では、彼らを強者にしているのは一体何なのか?本書を読めば、それを理解する第一歩を踏み出すことができます。
以下、本書の読書メモです。
はじめに(P3)
今の世の中で最も強いのは被害者。
他者から被害を受けたときにその被害を白日のもとに晒すことができれば、被害者と加害者の力関係は一点。
被害者が最も大きな力を持つことができる。
いつまで立ってもすべてを「親のせい」にする人(P40)
世の中にはとんでも親、つまり子どもを傷つけ、虐待する、毒親が存在する。
確かにその影響はよろしくないが、必ずしも親の行動すべてが、子どもの人生をダメにしているわけではない。
場合によっては、子ども本人が自分のダメさと向き合いたくないがゆえに、「親が自分をダメにした」と被害者ぶっているケースも少なくない。
これがエスカレートすると、家庭内暴力をはじめ、ニートとして親に寄生し続けるなど、面倒な方向へ事態が進んでいく。
被害者ぶる目的(P63)
被害者ぶる人は、目的があって「私は被害者です」と声をあげている。
つまり、自分が被害者になることで何らかの利益が得られるからこそ、被害者であることを強調している。
被害者を武器に利益を得ようとするタイプとしては、次の3タイプがいる。
1・利益を得たいメリット型
利益を得るために被害をでっちあげる。
商品やサービスに因縁をつけて料金を安くしてもらったり、特典をもらったりするのはこのタイプの常道。
2・自分に注目を集めたいスポットライト型
自分が悲劇の犠牲者になることで周囲から心配してもらい、注目を集められることに喜びを感じているタイプ。
一言で言うと目立ちたがり屋で、いわゆる承認欲求が強い人がこれ。過激な発言で誰かの注目を集めて炎上を起こす人も、本質的な目的は同じ。
3・リベンジ型
復讐願望が強いヤバいタイプがこれ。
心から自分は被害者であると信じているので、状況を有利にするためには事実の捏造もいとわない。
あることないことを大げさに騒ぎ立て、「加害者」を蹂躙しようと画策する。彼らの妄想は激しく、ときに「自爆」もいとわないので、扱いには注意を要する。
成功者はずる賢い(P98)
成功者=人間的に素晴らしい人的なイメージが吹聴されるが、成功と人格は必ずしも一致はしない。
一般的に、社会で成功する人。会社で出世していく人ほど、実は他人にとって害をなしやすい。
彼らは成功をつかむために、日夜血の滲むような努力をしている。
だからこそ、「自分が成功するのは当然なんだ、今の地位は自分に相応しいのだ」という自己保身の気持ちが強い。
当然、それを脅かす人にはその防衛本能が警戒のサインを鳴らす。それによって被害者意識が表に現れ、やがては復讐の牙となる。
被害者ぶる人への対処法(P120)
「私はあなたのせいでこんなふうになってしまいました」という、被害者ぶる人への対処法。
まず大切なのは、彼らに対してしっかり反論していくこと。違うことは違うと、大きな声で主張すること。
それが正しいか効果があるか。そんなことは気にしなくていい。
大切なのは、こちらが反撃する人であることを、相手に印象づけること。被害者ぶる人のいいなりにはならない人であることを、きちんと示すことが大切。
被害者ぶる人の妄言をだまって聞いていれば、あることないことウソを吐くので、ますますこちらが不利になる。
しかし、きちんと反論して、「私はあなたの言いなりにはなりません」という態度を示すことで、攻撃のターゲットから逃れることができる。
そして、反論する際の大切なポイントは、敬語を使うこと。
被害者ぶる人は、揚げ足取りの名人と考えればいい。ちょっとした言葉尻を捉えて、あれこれ因縁をつけてくる。
そこで、反論するときは敬語を使い、言葉で距離とこちらの冷静さ、そして人間的な品格を示す。
とくに、距離感を保つことは大切。敬語を使うことで、相手との距離をじっくり保つことができる。
それと、被害者ぶる人と相対する場合は、可能な限り第三者に近くにいてもらうことが望ましい。
被害者ぶる人と関われば「言った」「言わない」の水掛け論に発展する可能性がある。
彼らは自分が優位な立場に立つために、平気でウソを捏造する。そのため、誠実に対応しようとしても、不愉快な思いをさせられる可能性が高い。
だからこそ、大切なのは事実の担保。第三者がいれば、ウソの捏造によって、不利な状況に追い込まれるリスクを軽減することができる。
職場での人間関係(P135)
万が一職場に関わると面倒な、被害者意識が強い人がいる場合の対処法。
基本は付かず離れず。必要最低限の場面のみ接点を持ち、それ以外はガンスルーするのが良い。
関係を良くしようとプライベートの話をするのはおすすめできない。
こちらが相手を楽しませようと振った話題が相手の劣等感や不満を刺激して、攻撃対象にされる可能性がある。
業務とは関係ない話は、一切しない方が身のためになる。
腹が立ったときにすること(P146)
不愉快な言動で腹が立ったときは、頭のなかで、「1・2・3・4」と数を数えること。つまり怒りを即座に爆発させないよう、時間をかせぐことが大切。
理不尽な目に遭ったときはこう考える(P152)
人生、どんなに善処をして誠実に生きていても、ときに理不尽な人によってボロボロにされることがある。
そんなときは、「因果応報」という言葉を思い出すといい。
「結局、人は自分で撒いた種を刈り取る」というが、それが本当かどうかはこの際関係ない。彼らの悪行の責任は彼ら自身に返っていく。
そう考えれば、自分が被害者意識から抜け出すことができる。
感想など
「被害者意識」という、ある意味、今の時代でとてもホットな視点で人間関係について考察している刺激的な本。
本書の前書きでも説かれているとおり、世の中、いわゆる弱者と言われている人達が必ずしも本当の弱者とは限らない、という認識が徐々に広がっているのが現代の進歩です。
その点について、具体的にどうだとは書きませんが、現実の社会で様々な人間関係を見てきた方なら、現実的に納得できる話であることは間違いありません。
ただ、本書においては、おそらく意図的に、その話題をあくまで一般論の範囲に限定しています。そのため、多少の物足りなさを感じるのも確かです。
とはいえ世の中で、被害者という立場を武器にして利益を得んとする不義の輩がいることを喚起している意味において、本書の価値は高いと感じています。
世の中、生きていればいろんな人と出会います。
そして、当たり前のことですが、世の中、良いばかりではありません。ときに、出会ったことを後悔する人だっています。
本書で述べられている「被害者ぶる人」は、まさにその典型。彼らと相対し常識的な倫理観をもとに誠実に向き合おうとすれば・・・、という話です。
だからこそ大切なのは彼らにどう対応していくか。被害者ぶる人と関わるハメになったとき、どのように行動すれば理不尽な不利益を被らないか。
本書がその武器となることでしょう。