現代日本における逆転のカギは教育にあり。
結局、「学歴は役に立たない」と言われても人生あれば役に立つのは学歴。だから我が子には良い学歴を手に入れてほしい。
その親の気持ちが強く伝ってくる本がこちら、桜井信一著『下剋上受験 両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した!』(産経新聞出版社)です。
『下剋上受験』について
本書は父母ともに「中卒」家庭の娘が東京の最難関私立中学合格を目指した実話を本にしたもの。
語り手は主に父親。
「自分に学歴がない。それによって世の中でどれほど損をしてきたのかを知っているからこそ、娘には学歴を手にしてほしい。下剋上を果たして、上の暮らしを実現してほしい!」
そんな純粋な欲が、受験の動機になっていることを実感します。
それには賛否両論があるかもしれませんが、個人的にはこういう上を目指す欲というのは素晴らしいものだと思います。
だからこそ、個人的にはとても好意的な気持ちで、この本を読みました。
だってやっぱり、勉強はできないよりはできたほうがいい。それは学歴はもちろんのこと、人としてたくましく生きていくためにでもあるからです。
本書で勉強を頑張っているのは、「純血の中卒の子」(P18)である桜井佳織ちゃん。そして、それをサポートする父親、桜井信一さん。
佳織ちゃんのイメージとしては「団地の公園で遊んでいるその辺のガキ」(P18)で、桜井さん親子が受験を通して驚くほど成長を遂げる、その成功ストーリーが素晴らしいです。
本書のネタバレをさけるため、結果どうなったのか、それについて具体的な言及はしませんが、大切なのは今より「もっと」を目指すこと。
そもそも勉強ができない自分を恥ずかしいと思うこと。そして勉強ができる人になって欲しいと思うこと。
その素直な気持ちこそが、人生をより良くする。そのことが実感できる内容になっています。
中学受験は子どもを苦しめる悪なのか?
小学生の子どもを無理に勉強させて私立に行かせること。
そのこと自体に、あまり良いイメージを持っていない方ももしかしたらいらっしゃるかもしれません。
しかし本書で桜井さん親子が中学受験を決意したように、現実問題、
「このまま、うちの娘を公立中学に通わせたくない・・・」
という、切実な理由がある場合があります。
なぜなら公立中学はハッキリ言って、地域によってとんでもない格差があるという、現実があるからです。
具体的には、中1の段階で九九ができない子どもと、英検の2級に合格するくらいの子どもが同じ教室で、同じ授業を受ける。地域にもよりますが、そういう環境があります。
それでも教室の環境がまだ普通であるなら、学校に秩序があるなら、それは多様性を学ぶという意味において、非常に価値がある体験になるでしょう。
世の中にはいろんな人がいる。いろんな価値観がある。それを知ることは、確かにムダではありません。
しかしそこには絶対、誰もが安心して学校へ通える、「秩序」があってこそのものです。
こんな学校には絶対子どもを入れたくない
ところが現実問題、公立校の地域格差は絶望的。
まともな公立校は非常にコスパがいい。何より、思春期の大切な時期、いろんな仲間と知り合い切磋琢磨しながら、貴重な思い出を作れることでしょう。
一方、まともでない学校だと、授業崩壊が当たり前。授業も成り立たず、完全に教育機関としての体をなしていません。
そればかりか、暴力や恐喝などの犯罪行為が蔓延している現実があります。
では両者の違いは何なのか。
たいてい、中学校の様子というのは、そこに上がってくる子どもたちの小学校を実際に見れば、十分予想ができます。
つまり中学受験とはいわば子どもの環境を憂いる保護者の現実的な選択肢。
「今うちの小学校にこんな保護者、子どもがいるのだから、中学へ行けばもっとひどくなる・・・」
このような現実的な危機感が、中学受験を検討している保護者の背景にあります。
これは当然至極な話で、成長期の子どもにとって大切なのは環境です。なぜなら、類は友を呼ぶ。
悪い環境にいれば悪い影響を受け、我が子の人生も狂ってしまう。その恐ろしさがあるわけです。
問題の本質は子どもが教育を受ける権利、すなわち真っ当に成長する権利
私立の場合は、合格者の保護者の価値観は統一されていますが、公立校の場合、事情は異なります。小学校の段階でその環境の差は明確です。
本書でもその具体例が登場するので、興味がある方はぜひ本書を御覧いただきたいですが、そういう環境で子どもを育てたらどうなるか。
そこが怖い。だから子どもをまともな環境の学校で育てたい。それは本当に、保護者として自然な気持ちだと思います。
実際、傾向として、勉強ができる子どもが多い環境ほど、まともな教育環境が用意されています。
もちろん、陰湿ないじめもあるかもしれません。いや、あることでしょう。
しかしそこは、暴力などの犯罪がびこり、教師が監督者としてまともな役目を果たすことができない環境より、ずっとマシなのは確かです。
この意味で本書は、子どもの教育環境に意識を持つ保護者の方にとって、大きな意味を持っている本です。
それは高偏差値の中学に子どもを入れる、ということではなく、自分の子どもにとって一番の教育環境を追求する。その意味においてです。
受験は悪ではない!
実際、きちんと勉強して良い大学に行けば、良い環境を手に入れられる可能性が上がります。
何より、「勉強をしてきた」という経験を子どもに積ませることによって、将来子どもが大人になったとき、自分で必要なことを勉強できる大人になります。
学歴云々はおいておいても、自分で勉強できる。子どもがその姿勢を身につけることはまさに大きな資産となります。
ということで、中学受験はもちろんのこと、勉強をする意味。そして価値。そのことについて、改めて考えさせられる価値がある本です。
個人的には、本書の父親の行動力。そして考え方に、非常に共感を持っています。