人の行動は嫉妬で説明できる!?
和田秀樹著『嫉妬学』(日経BP社)の読書感想です。
この本について
「嫉妬」という感情をもとに、人間の行動原理や日本社会を解き明かす刺激的な本。
嫉妬とは何か、どのような意味があるのか、嫉妬という感情が日本をどのように動かしているのか(なぜ日本の組織は硬直的なのか)など、心理学的な分析がされています。
この本を読むことで、「人は能力だけでは成功できない。嫉妬に対する理解や対処がないと、どんな力のある人でも、足を引っ張られ、トラブルに遭ってしまう」ということが分かります。
以下、本書の気になった内容です。
嫉妬のプラス面(P2)
嫉妬は人を羨み、妬むネガティブなパワーになる反面、悔しさや妬ましさをバネに自らを鍛えあげるプラスのパワーにすることもできる。
嫉妬の感情を上手く用いれば、自分を成長させる力になる。
嫉妬の種類(P12)
嫉妬にはジェラシー型とエンビー型、二つのタイプがある。
・ジェラシー型の嫉妬
→「あいつがうらやましい、あいつには負けたくない、だから頑張るぞ」というように、自分で努力しライバルよりも成長しようとするポジティブで健全な嫉妬。
・エンビー型の嫉妬
→恨みつらみ妬みで、人を羨むだけ、自分では何もしないが人を妬ましく思うネガティブ型の嫉妬。
エンビー型の嫉妬心を持つ人は、自分で状況を変える努力をしない。かわりに、妬んでいる相手を貶めたり、足を引っ張るなどの陰湿な行動に走る。
その本質は、相手を貶めることで自分の卑屈なプライドを保とうとする心理。
階層社会ではエンビー型の嫉妬がはびこる(P18)
貧富の差が激しい社会、既得権益層が利権を独占し、新規参入の余地がない硬直的な社会においては、人は自らの努力で成功することができない。
そのため、上を目指そうとするよりも、利権者達を引きずり下ろそうとするエンビー型の嫉妬傾向が強くなる。足の引っ張り合いの多い組織や社会は、人々が希望を持ちづらいため、陰湿な嫉妬がはびこる。
日本の高度成長期はジェラシー型の嫉妬社会だった(P25)
学歴信仰があり、受験競争が過熱していた高度成長期の日本は、誰もが「オレは頑張れば人生で成功できるんだ」と期待が持てた時代だった。
頑張れば認められた時代だったため、「あいつは頑張っているんだから、オレも頑張ろう」という人々のポジティブな嫉妬が、社会の成長に貢献した。
政治はエンビー型嫉妬の世界(P40)
政争においては、ライバルの失敗=自分の得。
自分が失敗すれば政治生命が終わってしまう。そこで、政治の世界では、自ら努力するより、人を貶め排除するような、エンビー型の嫉妬心が蔓延してしまう。
問題は努力しても報われない状況(P55)
努力せず、人の悪口を言い、足を引っ張り合う。そんな組織や環境では、「頑張っても報われない・・・」というような無力感的な現実があるから。
努力が報われる環境であるなら、失敗したときに「自分の努力が足りなかった」と思える。
しかし、努力してもしなくても関係のない状況では、プラスに向上心を持つことはなく、人を貶める方向へ動いてしまう。
無能なトップほど「危険人物」になる理由(P57)
組織において、実力ではなく、コネや運でのしがってきたトップは、常に自分より優秀な人間に地位を奪われることを恐れている。
根性でのし上がり、自らの実力で獲得した地位ではないため、自信がない。自信がないがゆえに他者を蹴落とすことを第一にしてしまう。
そんなトップは、常に警戒心を持ち、少しでも驚異を感じる人間は徹底的に排除されてしまう。
そのため、優秀な部下が育たず、トップのまわりには、イエスマンばかりになってしまう。そうなると最終的に組織はダメになり、危機を迎える。
硬直的な組織の背景にはメンバーの自己愛がある(P63)
組織には、外部の人間を入れることを極端に嫌う組織がある。
そのような組織はいわゆる生え抜き組織で、外部の人間を入れることで、自らの地位や自信を脅かされてしまう結果になる。
だから、組織に新しい風を入れようとするより、自分と同じ組織の人間で固まることになる。
日本はもともと譜代重視、外様軽視の社会なので、転職などで新しい組織に入る場合は、既にいる譜代社員の心理に敏感になっておくことが大切。
日本のムラ社会の構図(P71)
日本のムラ社会はいわば1つの閉鎖的な共同体。
外部の人間を入れることはしないが、内部のもの同士、嫉妬し足を引っ張りあっている。(その足の引っ張り合いで利益を得るものがいるのがポイント。)
このムラ構造は、官庁や大学組織、様々なところで見ることができる。
外部の参入を拒み、途中からの参入は困難。内部ではエンビー型の嫉妬による足の引っ張り合いが繰り返されている。
社会が停滞するとき(P78)
社会が停滞するときは、既得権益層が強くなる時期。利権は押さえられ、新規参入は厳しい。
社会の停滞期は、努力で人生を変え難い時期であり、そんなとき、人々は努力よりも嫉妬心に支配され、持つものに対する嫉妬心をむき出しに、不毛な争いに発展していく。
【社会の変化について】
・成長期
→社会が右肩上がりに伸びていく時期。この時期は、頑張れば報われる時期であり、努力が結果になるため、エンビー型の嫉妬は少ない。
・安定期
→社会構造が固まりつつあり、既得権益層が出来上がる時期。社会的に安定しているものの、階層の固定化が進む。
・衰退期
→社会が停滞し、勝ち組と負け組がはっきり分かれている時期。生まれや血筋によって、最初から競争の優位不利が決まっているためにエンビー型の嫉妬が蔓延する。
性善説が機能するとき(P85)
時代によって、性善説が機能するときがあれば、性悪説が機能するときがある。状況によって、人は変わるものであり、人は時代の空気に影響されている。
お金を軸にした価値観(P110)
現在の資本主義システムにおいて何より価値を持つのはお金。たくさんお金を持つものが勝者であり、社会もお金を中心に動いている。
しかし、モラルのないお金は、腐敗と不正の温床となる。
日本における親の階層化(P124)
日本では、受験競争に勝ったものが、社会において良い地位を得る傾向がある。しかし、子どもの教育について、親の格差が広がっている。
学歴のある親は、子どもの教育に強い関心を持ち、子どもが小さいうちから、しかるべき教育を施す。
勉強の大切さを子どもにしっかりと教える。結果、その子どもは、きちんと勉強して、高い学歴を取得する。
一方、親のなかには、自らの人生をあきらめた親がおり、子どもの教育に関心を持たない。子どもは勉強せず、大学に進学することもないため、低い地位に甘んじてしまう。
日本では、このような親の教育格差が固まりつつあり、子どもは生まれによって将来を左右されてしまうような状況になっている。
感想など
なぜ足の引っ張り合いが起きるのか、「出る杭は打たれる」のか、その嫉妬の心理を分析、嫉妬を切り口に日本の社会を考察しているところが印象深い本でした。
妬みや恨みといったダークな感情は誰もが持っているものですが、そのダークな感情が、仕事や人間関係、様々な状況で顔を出しています。
嫉妬によって人間関係がダメになる。嫉妬により変なウワサを流され、孤立してしまう・・・etc。嫉妬によってトラブルにあうとき、嫉妬の怖さと実害を知ることになります。
「人の恨みと妬みは買うな」という言葉がありますが、それは文字通り金言。
どんなときに人は妬むのか、妬みでむやみに敵を作らないためにどうしたらいいのか、人間心理の勉強にオススメ。