日本ギターの生き字引。『僕らが作ったギターの名器』を読む

僕らが作ったギターの名器 (文春新書)

日本のギター作りはここか始まった?

日本初のギタープロショップ、ESPの開設者であり、日本の80以上ものギターブランドを立ちあげてきたギター設計家、椎野秀聰さんの『僕らが作ったギターの名器』 (文春新書)の読書感想です。

この本について

著者の椎野さんはモーリスやグレコ、ESPなど、数々の日本の有名ギターブランドに関わってきた日本の代表的なギター設計家であり、ジャパニーズギターの生き字引とも言える方。

本書では、マーチンからギブソン、フェンダー、アメリカのギターを模倣しつつ、ジャパニーズギターを生み出していった職人たちのものづくりの話や、日本のギターブランドの立ち上げの話など、ギター好きにはたまらない内容になっています。

以下、本書の気になった内容の要約です。

ギターとブランドについて(P45)

ブランド=単なるマーケティング用語ではなく、社会に提供できる価値を宣言すること。

ギターなら、マーチンのブランドやギブソンのブランド。これらのギターのブランド名は、メーカーとして「志」を表明しているということ。

アメリカの某ギターブランドの品質低下と、市場競争におけるギター制作の葛藤について(P51)

各社が提供する有名ブランドのギターでも、製作時期によって確実に音が違う。

70年代から様々な人がギターを買い求めるようになり、ギターが大量生産されるようになった。また、企業買収等により、ギター作りよりも売上が重要視されるような企業形態になってしまったメーカーもある

買収された某ブランドのなかには、製作をめぐる会社内のいざこざや製作向上の移転によって、ギターの品質を落としてしまったブランドもある。

いい音のギターを作ろうとすれば、非効率的にならざるを得ず、非効率でも良い仕事をしたいと現場でギターを作る職人さんたちと、儲け主義の経営陣との間に溝ができてしまう。ここに楽器製作の難しさがある。

良いミュージシャンの条件(P72)

良いミュージシャンは、自分が出している音だけでなく、他のメンバーが出している音も、的確に聞き分けている。

この力は楽器で会話をするコミュニケーションのようなもので、この力がアンサンブルの妙味になる。

音楽の楽しみ方が変わったターニングポイント(P128)

1969年、アメリカのニューヨーク郊外のウッドストックで開かれた音楽会により、様々なミュージシャンたちが、ギターをかき鳴らした。

その記録映像は、たくさんの若者たちによって見られた。この結果、ロックは聴いて楽しむものから、映像を見て楽しむものに変化した。

ギターの制作とコストなど(P205)

良い楽器を作ることは効率主義とは相反すること

儲け中心でたくさんギターを作って、それを売っていけば、会社は儲かるかもしれないが、それは良い楽器ではない。

しかし、良い楽器を作ろうとすれば、儲けが出なくなり、会社としてやっていけなくなるリスクもある。

ただ今後は、ギター制作で使用する良質な木材が枯渇してくる。

大量生産大量消費のような合理主義的、儲け主義のギター制作ではなく、ギターを買った人が、何世代にも渡り愛用してくれるような良い楽器作りを目指すべき。

楽器屋で良いギターを選ぶために(P214)

良いギターは、最初から鳴る。最初に鳴らないギターが、何年もして劇的に変化するのは期待しない方がいいかも。

楽器制作は価格競争に走ってはいけない(P233)

真摯に楽器作りをしていくなら、低コスト中心の価格主義に陥らず、良いものを納得いくまで作り、適切な価格で販売すればいい。それで売れなければ、そのブランドはすでに役目を終えている。

経済主義に飲まれるのではなく、音楽の楽しさ、クリエイトすることを第一に、ギターを作っていくことが、ギターメーカーの大きな使命。

感想など

アコギを愛する者として、非常に興味深く読んだ本。

近年は木材の枯渇を始め、ギター文化そのものの人気低下。環境はどんどん変わっています。

そんななか、良いギターを作るためにはどうすればいいのか。ファンとして、それをどう買い支えればいいのか。

ファンとしては、非常に考えさせられています。

ただ一つ言えるのは、大量生産ではなくやはり、アコギが一つの文化として価値がある芸術品になって欲しい、ということ。

それはたとえば戦前のマーティンのもののように、昔のものでも高いお金を出して購入したい。そういう価値が実感できるものになって欲しい。

そういうものこそ、お金を出して所持したい。そう思います。

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