結局のところ、趣味に夢中になっても人生は変わらない。
村上龍著『無趣味のすすめ 拡大決定版』(幻冬舎文庫)の読書感想です。
この本について
趣味の話から仕事、人間関係、経済、政治、様々なエッセイを楽しめるエッセイ集。
気軽に読むことができますが、「こんな物の見方、考え方があるんだ」と世の中をもっと別の見方で見たくなる内容になっています。
以下、本書の読書メモです。
はじめに(P8)
趣味の世界は自分を根本的に変えてしまうような力はない。趣味に打ち込んだからといって、人生を揺るがす出会いや発見はない。
予定調和の世界が趣味の世界であって、もし人生を変えるような出会いや発見、心を震わす何かを見出したいのなら、それは仕事の中で見つかる。
天才の条件(P20)
天才は多作。様々な作品を作り、まとまった仕事をしている。
最高傑作という言葉に値する作品を作る前提が多作であること。だから後世に残る作家はたいてい、多作で様々な作品を残している。
目標について(P26)
目標を持ったとき、脳が活性化する。
目標とは他人から与えられたものではなく、自分自身で選んで決めたもの。自分で決めた目標なら、どんなに大変でも頑張れるし、病気にもなりにくくなる。
だから目標は「あったほうがいい」というものではなく、それなしには生きてはいけない水や空気のようなもの。
読書とは(P47)
読書は必要に応じてやればいいもの。
皆が読んでいるからといって、自分も読む必要はない。自分が必要としている情報を得るために本を読む。これが読書の基本。
情報に飢えている、そしてその飢えを満たす。これぞ意味がある読書。
リーダーの役割(P54)
リーダーとは、どこに問題があるのかを示し、そして何をすればいいのかを示すことができる人。リーダーに資質など関係にない。
何をすべきなのかを示し、その上で優先順位をつける。そして具体的に何をどうしていくか、そこを名言できる人こそが信頼できるリーダーになる。
強い絆と弱い絆(P65)
絆には強い絆と弱い絆がある。
強い絆は家族や恋人、親友など、ほぼ毎日顔を合わせる人々との絆のこと。弱い絆は年に数回会う程度の関係や、メールやSNSなどの関係のこと。
アメリカでは、低所得層の人間関係はほとんどが強い絆で、貧乏な人ほど家族や親しい友人たちとの人間関係の以外には人間関係がない傾向にある。
一方、中上級層の人々は弱い絆の人間関係をたくさん持っており、趣味の場所やジム、レストラン、様々な場所で顔を広げ、人間関係を広げている。
そこで様々な人脈を作り、仕事に役立てている。
転職して成功する人(P85)
転職が合理的なのは高度専門職の人や著しい実績を持つ人だけ。その他、会社が倒産してしまった人など、仕方なく転職をする人。
一般的に転職で上手くいくのは、「お前がいないとダメだ」と会社から慰留を頼まれるレベルの人だけ。
転職が頭に過ったときは、自分が会社からどの程度評価されているか、そこを冷静に見極めること。
投資について(P86)
投資とは今の価値と将来の価値について思いを巡らし、自分の意志で資源を投入する行為のこと。ブームや人の甘言に乗せられることではない。
投資を検討する際は、「うまい儲け話はこの世にない」ことを忘れず、何に投資すればそれが将来プラスになっていくのかを見極め、冷静に判断する。
上手く投資ができれば、5年後10年後の自分の未来が変わる。今手持ちの資源をムダにせず、意味があるものに投資する。
失敗はしてもいい、ただし(P114)
人生失敗から学ぶことは多い。だから人生は常勝を目指すのではなく、ある程度の敗北は経験しておいた方がいい。
ただし、致命的な敗北は絶対に避けるべき。人生、多くの人が致命的な敗北を喫し、それがゆえに人生立ち直ることができなくなっている。
負けられない戦いは絶対に負けてはいけない。
少子化の問題(P133)
少子化の問題は、育児や教育コストの高騰、女性の社会進出、保育所の不足、そして中流階級の没落など、様々な問題と関係している。
特に中流階級の没落と社会の二分化傾向はとても深刻な問題。
社会が不安定になり、暴動が起こり、全体主義や警察国家が生まれる。その背景には必ず、中流階級の没落がある。
感想など
今の時代はいろいろあるけれど、その中でどうやって自分の生き方、自分の道を進んでいけばいいのか。
読後そんなことを考えた本。
今の時代は昔とは違って、仕事にしろ人間関係にしろ、自分なりに答えを見つけていかなければいけないのですが、それは自分一人で考えても見つけるのは難しいものだと思います。
では、モデルなき時代にどうやって自分のモデルを見つけるか。
その参考になるのが読書だと個人的には思っているので、「こんな考え方があるのか」という本は読んでいて刺激的。
このエッセイも、テーマはバラバラですが、考え方や価値観、感性、発想など、「なるほどなぁ」という発見がたくさんあります。
気軽に文章を楽しみつつ、では自分はどう思うか。そんな味わい方ができる本だと思います。