現実を隠蔽する表現は、角が立たないために必ず好まれる。
村上龍著『逃げる中高年、欲望のない若者たち』(幻冬舎文庫)の読書感想です。
この本について
小説家村上龍さんのエッセイ。
若者の草食化や勝ち組と負け組などの言葉が流行する現状を認識しつつ、今の時代をどう生き抜いていけばいいか、刺激的なエッセイが満載です。
以下、本書の読書メモです。
流行語について(P10)
草食系や肉食系、勝ち組や負け組、社会で流行する言葉は物事や事象を正確に表現する言葉ではなく、身も蓋もない現実を覆い隠すために作られた言葉であることが多い。
「それを言っちゃあお終いよ」となるので、角が立たない表現に変えられる。それが流行語の本質。
若者の苦しみ(P42)
今の若者は、世の中自体が昔とは変わっているのに、変化の時代をどう生きていいのかを教えられないまま、成長していく。
一人で生きていく訓練をしていないので、いざ社会に出てもどうしたらいいか、どう生きればいいか分からず、年だけ取っていく。
一人で生きていくための訓練とは、一人で生きていくために必要な知識と技術とネットワークを手に入れること。
若いときの特権はただ時間があるだけで、いいことはそんなにない。若い内にこそ、自らの生き方を考え、一人で生きていくために必要なものを手に入れておく。
成功者は好奇心が強い(P48)
成功した企業経営者は、70歳近くになっても新しいことにどん欲。いろんなことに興味を持ち、知りたがる。そして女にどん欲。貪欲さと成功は無関係ではない。
草食化の原因(P51)
若者が草食化している原因は、今の社会が豊かだから。
小さい頃から何でも手に入る豊かな社会に生まれた若者は、その豊かな環境がゆえ、外に求めることを放棄してしまっている。
外への欲求、好奇心は生きる意欲であり、それを放棄するということは、すなわち生きる意欲の低下してしまうのは当然。草食化は豊かさの弊害。
感想など
今の時代は豊かかもしれないけど、生きていくのはそう簡単でもない。そんなことを思った本。
確かに草食系とか肉食系とか、これらの言葉は「現実を隠蔽する表現」で、早い話若者が草食化するのは、「やっぱりお金のことじゃないか?」と思ったりします。
実際私も20代の頃は就職に失敗して困窮、恋愛どころではなかったので、草食化という表現はちょっと現状と違うんじゃないかと感じています。
まぁあと先を考えずやることだけやって責任を取らない人もいるかもしれませんが、大概のまともな男は、自分の経済力がないとその先のことを考える余裕がないんじゃないか?
実際問題、恋愛するにもお金がいるし、時間もいります。それなのに、その土台となるお金や時間に余裕がなかったら、なかなか難しい。
(でも逆説的ですが、こういう自分の将来、土台に自信が持てないときに「一緒にやっていこう」という相手は最高だと思います。)
そんな感じで、世の中いろんな言葉や考え方が流行しますが、「現実を隠蔽する表現は、角が立たないために必ず好まれる」のが常。
実際世の中がどうなのか、それは自分の目と感覚で、世の中を確かめたいものです。