『ローマ人の物語』14~28巻まで読んだ感想(帝政の繁栄まで)

ローマの風景

教養と物事の大局観を養う名著、『ローマ人の物語』14〜28巻まで読んだ感想です。ツイッターでつぶやいていた内容をもとに、備考メモとして残しています。

1〜13巻までの感想はこちら

『ローマ人の物語14 パクス・ロマーナ[上]』

カエサルの後を継いだ初代ローマ皇帝アウグストゥスことオクタヴィアヌスの統治について述べられている本。

いかにローマが共和制から帝政へと向かったか?アウグストゥスの静かなる改革の軌跡に、秘められた野心の存在を知る。

実戦では負け続け、軍人としての才能はカエサルにはるかに劣ったオクタヴィアヌス。自分の能力」を冷静に見極め何事も慎重第一。

カエサルの暗殺を教訓に本心を巧妙に偽装。敵に気づかれないよう一歩一歩目的を遂行していくその試みは、大望を成し遂げるために大切なことを教えてくれる。

敵に反対する大義名分を与えないために行動は合法を厳守。誰も反対できない合法を重ねていくことで、目的を果たす政治手腕(P60)。

自分がすべきことを実現するために、いかに反対者に攻撃材料を与えないか?「今あるルール」の中で効果的に立ち回る慎重さが必要ということを学ぶ。

『ローマ人の物語15 パクス・ロマーナ[中]』

・アウグストゥスによる軍事や税制などの制度改革

・アグリッパやドゥルーススといった盟友たちとの別れ

など、アウグストゥスが「持続した意志」を持ち、共和制の旗を掲げつつも帝政へと向かっていく軌跡とそのドラマが描かれる。

印象的だったのが、軍事の才能がないアウグストゥスのかわりに軍事を担った盟友アグリッパとの別れ。

体が弱く病弱だったアウグストゥスは長生きし、壮健な肉体の持ち主だったアグリッパの早死してしまう話(P146)は、「寿命とはなんぞや?」としばらく、考えさせられた。

体が弱く指揮官になった戦は敗北ばかり。にも関わらずアウグストゥスがカエサルの後継者に指名された理由が「持続する意志」と「自己制御の能力(P147〜148)。

自分を知り(良い面悪い面冷静に)つつ、「私はこれをする」という意志を持ち続ける。そんな大切さを、教えられた気がする。

『ローマ人の物語16 パクス・ロマーナ[下]』

共和制から帝政への移行を実現。パクス・ロマーナ(ローマの平和)を実現した晩年のアウグストゥスの統治後期と、その晩節を描く。

帝政を実現した英雄でさえ叶わぬことは叶わず、その晩節は決して安寧でなかったことが印象に残る。

アウグストゥスは自分の血を継ぐ者に後継を託そうと手を打つが、「嫉妬深い幸運の女神」によってその試みは次々と失敗。

結局妻の連れ子だったティベリウスが後を継ぐわけど、アウグストゥスの苦悩が文章から伝わってくる。『ローマ人の物語』は人々のドラマが面白い!

・見たくないものさえ見ようとする冷徹な現状認識力

・粘り強い意志と行動の継続

・適度の楽観性

・物事を極端にとらえないバランス力

(P34)

を持つアウグストゥスが、晩年は協力者の死亡や一族の不祥事で迷走するところが本書の読みどころ。「光が当たれば影が・・」という言葉が浮かぶ。

『ローマ人の物語17 悪名高き皇帝たち[一]』

カエサルから始まりアウグストゥスによって帝政へ移行したローマを引き継いだ「三代目」ティベリウスの統治について語られる話。

「悪名高き皇帝」に列せられるティベリウスによってローマの帝政が盤石になった、という点が興味深い。

この本を読むと、ティベリウスは日本で言う徳川家康のようなイメージを持つ。

冷静沈着、やるべきことを着実にこなし帝政を盤石にしていく一方で、華やかさがなく社交嫌い。政敵も着実に葬っていく。

人情味に欠けた冷たい印象が付きまとうけど、小さい島に引きこもってしまう性格に興味が深まる。

『ローマ人の物語18 悪名高き皇帝たち[ニ]』

ティベリウスのカプリ隠遁から最後の日々、そしてかの有名なカリグラの治世を描く話。

ローマ中枢から小さな孤島へ隠居、「リモートワーク」で政治を執ったティベリウスの人間像は、強く興味を惹かれる。

アウグストゥスの方針を引き継ぎ、着実に帝政の土台を固め、政治的に極めて重要な役割を果たしたティベリウス。

が、人々に受けるパフォーマンスはせず人気はない。本人も人間嫌いなのか小島に引きこもって政治をするという不思議さ。有能な政治家が必ずしも人々の人気者とは限らないことを学ぶ。

ティベリウスの次は「暴君」のカリグラ。

アイドルのような人気で人々から迎えられた若者は国民の人気取りに走る。そして精神錯乱後は有力者の処刑祭りに走り、最期は親衛隊の裏切りによって暗殺される。

エキセントリックな性格の人の内心は、小心者であることが多い。

P132

という分析が印象深い。

『ローマ人の物語19 悪名高き皇帝たち[三]』

カリグラの暗殺を受け急遽皇帝の座についたクラディウスの治世を描く。

読後は「想定外の出来事の運命を狂わされた男」という印象を強く抱く。「職務遂行で燃え尽きた」(P191)とあるけど、その最期に切ない気持ちになった。

カリグラが暗殺されなければ歴史に名を残すこともなく消えていた歴史好きの学者皇帝、それがクラディウス。

権力を手にき己の存在を誇示するキャラではなく、よく言えば真面目。悪く言えば地味。この人は重い職務を背負うより、自分の関心に没頭できる静かな人生の方が、きっと幸せだったと思う。

歴史家だった男は50歳で突如皇帝に。政務1stで妻のメッサリーナには無関心。彼女は男狂いに走り死亡。そして次の妻は自分の息子を皇帝にしたい権力大好きの(小)アグリッピーナ。妻の野心によって暗殺されてしまう最期は、やっぱり切ない。

そして次の物語は狂気の皇帝、ネロへ。

『ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち[四]20』

権力欲に取り憑かれた母の夫殺しによって16歳で皇帝に即位するも、母を殺し妻を殺し、ローマより自分の欲望を優先した暴君、ネロの治世を描く。

本書を読めばナイーブで臆病な「芸術家」皇帝の実像が、とてもリアルに感じられる。

「この皇帝は大丈夫?」という空気になり二度の暗殺未遂事件が発生。本来の臆病な性格からネロは過剰防衛に陥り、殺してはいけない有能な将軍たちまで問答無用で処刑祭り。

結果全員から見捨てられ「国家の敵」に。

これで一人の芸術家が死ぬ。

P214

という最期の言葉が、うーん、という感じ。ネロの治世を読むと、この指摘が痛烈に刺さる。

勝者と敗者を決めるのはその人自体の資質の優劣ではなく、もっている資質をの人がいかに活用したかにかかっている。

P190

ネロに死によって、アウグストゥスに血を引く皇帝の治世は終わり、ローマは新しい時代へ向かう。

『ローマ人の物語21 危機と克服[上]』

ネロの死後わずか1年で3人もの男たちが帝位につき、そして死亡した危機の時代を描く。

神々の意志がローマ人への懲罰にあるということを、かほども明確に示した時代もなかった。

P17

という言葉通り、時代の混沌ぶりが伝わってくる。

ネロを追い詰め皇帝についたガルバ。ネロの親友だったオトー。そしてオトーを破り皇帝となったヴィテリウス。

3人とも目の前に転がり込んできたチャンスに翻弄され、潔く運命を受け入れたオトー以外の2人は悲惨な末路を迎えたわけだけど、「過ぎた野心は身を滅ぼす」の典型例を学んだ気がする。

『ローマ人の物語22 危機と克服[中]』

1年間に3人もの皇帝が倒れるという危機に陥ったローマの混乱を収束させた平民出身の武人皇帝ヴェスパシアヌスの治世を描く。

反乱の対応や財政の立て直しなど、確固たる責任感を持って政に取り組んだ「健全な常識人」の人間性に敬意を抱く。

ヴェスパシアヌスがローマの混乱を収束させローマは再び繁栄へ向かうわけだけど、次に帝位を継ぐ息子ティトゥスの為政者としての「自覚」も興味深い。

エジプトの姫に熱烈な恋をしつつも民衆の反対によってそれは悲恋に終わる。しかし30代という若さに関わらずその後は独身を貫く。

それは

上に立つ者は下位にある者よりも自由はより限られる。

P198

ことを自覚した為政者としての選択。「上に立つ者」が責任を果たさず己の「自由」を追求すれば国は混乱し大勢の民が不幸になる。

だから責任を果たせない者はネロのように退場させられる。残酷だけど、そういう世界だわな。

『ローマ人の物語23 危機と克服[下]』

ヴェスパシアヌスのあとを継いだ息子ティトゥスと弟のドミティアヌス、そして五賢帝時代の始まりを告げるネルヴァ、3人の皇帝による治世を語る本。

限界と運命の中で翻弄されつつも与えられた役割を果たした皇帝たちの人間像が興味深い。

ティトゥス

良き皇帝たらんと努力し「私」より「公」を優先。民衆から好かれたが病気により2年の治世で終わる。

度々災害に見舞われ、有名なヴェスヴィオ火山の噴火はティトゥスの時代の出来事。

治世が短ければ、誰だって善い皇帝でいられる。

P54

というローマ人の皮肉は意地が悪い。

ドミティアヌス

兄ティトゥスのあとを継ぎ皇帝へ。着実な仕事ぶりで帝政を運営するが、厳格な性格から政治により元老院に嫌われ暗殺される。

死後は元老院から「記録抹殺刑」を受けカリグラ、ネロと同じ暴君扱いに。妻の嫉妬心といい、「不運な男」という印象を強く持つ。

ネルヴァ

ドミティアヌスのあとの「ショートリリーフ」として登板。その政策を引き継ぎ、後継者に属州出身者のトライアヌスを指名。五賢帝時代の先駆けとなる。

人は気に食わないものさえ消すことができればその人の政策が継続されても無関心になる(P190、意訳)という指摘は興味深い。

3人の皇帝の治世とあわせて印象的だったのがP199〜のローマ時代の詩人の話。

現代人が夢を追って大都市を目指すように、ローマ時代も人々は夢を求めローマを目指し、そこで様々な物語を紡いだことが語られてる。今と変わらぬ2000年前の詩人の一生に、壮大なロマンと儚さを感じた。

『ローマ人の物語24 賢帝の世紀[上]』

ローマ初の属州出身の皇帝となりローマの全盛期を実現した名君トライアヌスの治世を描く。

経済や福祉など社会基盤を整えただけでなく、防衛線を整備し領土を拡張。内外ともに大事業を成し遂げた「至高の皇帝」の指導力が深く印象に残る。

ローマ帝国の絶頂期(黄金の世紀)を実現、政治は完璧でおまけに公平無私の性格。身内だろうとえこひいきなし。まさに「名君」という表現が頭に浮かび続ける。

ただ、トライアヌスの活躍は先帝たちが用意した環境があり、実力だけでなく「時」も来ていた。「運のいい男」という指摘は重要だと思う。

『ローマ人の物語25 賢帝の世紀[中]』

ローマの絶頂期を築いたトライアヌスのあとを継いだハドリアヌスの治世を描く。

ハドリアヌスといえばローマ国内を巡回した「旅する皇帝」。飛行機も車もない昔々の時代、広大なローマの領土を自ら旅した皇帝の足跡に壮大なロマンを感じた。

印象に残るのはやっぱり「ハドリアヌスの防壁(長城)」(P122〜)。

この遺跡はローマ化したブリタニアの人々(=ローマの体制に従う人々)への債務を果たそうとしたローマの記憶。イギリス(ブリタニア)にまで勢力を伸ばしたローマの力と意志に、ただただ驚愕する。

『ローマ人の物語26 賢帝の世紀[下]』

『25』に続きハドリアヌスの治世とその後継者となり安寧の時代を築いた「慈悲深い」ピウスの時代を描く。

為政者として優れてはいるものの「自己中心的」なハドリアヌスと「人格者」のピウス。2人の皇帝の性格の違いが印象深い。

ローマ国境を巡回、盤石にしたものの行動原理は自分1st。周囲には朝令暮改だけど「自分」に対しては終始一貫(P62)したハドリアヌス。

一方自分の資産すら国家のために差し出したノブリス・オブリージュの模範例のようなピウス。2人の対比が鮮やかで、ローマ皇帝の多様の在り方が興味深い。

『ローマ人の物語27 すべての道はローマに通ず[上]』

『皇帝や政治家ではなく、ローマの「インフラ整備国家」としての特質にズームイン。ローマが整備した「道」とその役割、意味について解説。読後は「すべての道はローマに通ず」というタイトルの意味が分かる。

ローマにとって街道整備は「心臓に血を送る血管」のようなもの。

街道を整備することによって人の交流も盛んになり、物流も発展。国家繁栄のベースとしてインフラ整備に力を注いだローマ人の姿が見える。そしてローマの時代に既に「レンタカー」的なシステムがあった(P220)という話に驚いた。

『ローマ人の物語28 すべての道はローマに通ず[下]』

『27』に続きローマ帝国のインフラをテーマにした話で、「水道」といったハードなインフラから「医療」や「教育」といったソフトなインフラについて語られる。P161〜からの各国に残るローマ時代の遺跡のカラー写真は圧巻!

2000年以上も前から水道が整備されていた都市部の発展ぶりも驚くけど、興味を引くのはローマの教育。

教育は国家の発展の基礎。7歳から11歳まで男女共学で「読み」「書き」「計算」を学ぶ初等教育が、低額の授業料で行われていたため、国民の識字率も高ったという話(P147〜)は印象深い。

感想など

14〜はカエサルが描いた「帝政ローマ」をその後継者アウグストゥスが具現化。帝政の構築と発展、そして繁栄が描かれる壮大な「帝国」の成長史。

「名君」だけでなく「暴君」も登場するも「帝政ローマ」という「システム」が上手く機能していたこと、そして外部環境がその発展を著しく妨げなかったこと。

ローマの歴史を俯瞰しつつも、大きな流れを理解することができる。そして、その時代に時代にどんな人が生きて、どのように活躍したか?

13巻までに続き、歴史の営みと人間の本質について理解が深まる読書体験を深めることができました。

特に混迷の時代を迎えている現代日本に住む私としては、ローマの発展と繁栄を迎え、そして衰退へと向かっていく流れを見ると、「国家」「時代」について、深く考えてしまいます。

最後に

栄枯盛衰。ローマの歴史を学んでいると、まさに「陽極まれば陰となる」という言葉の意味がすっと頭に入ってきます。

カエサルが青写真を描き、アウグストゥスから続く皇帝たちがそれを具現化していく。そして「五賢帝」のトライアヌスの時代にローマは空前の繁栄を迎え、そして「慈悲深い」ピウス帝に、ローマは平和の時代へ。

そして次回『29』に登場するは「哲人皇帝」のアウグストゥス。その時代を起点として、ローマは「終わりの始まり」を迎え衰退へと向かっていく。

この物語は、今まさに時代の転換点を生きている私たちに、深い意味を問いかけてきます。

『ローマ人の物語』の概要はこちら