「僕らには少年時代があった。しかしそれは移りゆく時の中で消え去ってしまう儚い思い出。だからこそそれは、誰にも汚されることがない、美しい記憶となる・・・」
そんな読後は非常に素晴らしい感動を味わえる、まさに現代の『スタンド・バイ・ミー』。百田尚樹著『夏の騎士』(新潮社)の読書感想をネタバレなしで語ります。
大人になるにつれ、心のささくれが気になった人は、この本を読んで忘れられた少年時代を思い出すことで、かつて純粋で真っ直ぐだった、少年時代の自分と出会えるかも。
はじめに
書店で購入後、「小説だから毎日コツコツ読んでいこう」と思ったものの、
勇気ーそれは人生を切り拓く剣だ。
P3
という最初の一行を読み始めてから物語に意識を完全に持っていかれ、気がつけば2時間ぶっ通しで最後まで読んでしまったという、超濃厚な読書体験ができた小説でした。
控えめに言っても、これだけ短時間で小説を夢中に読んだのは、大学生の頃カフカの『変身』を読んだとき以来。
そして小説を読んだあとは、まるで映画を観終わったあとのような、「瑞々しい」という言葉がぴったりの感動。余韻を味わうことができました。
まさに「最高!」の一言。
人は誰かと出会って成長していく
この感動はおそらく、『夏の騎士』を最後まで読み終えてこそのものなので、この記事ではネタバレを避けますが、話はいわゆる古典的な英雄譚です。
すなわち、主人公が成長の旅に出て(『夏の騎士』は冒険物語ではありません、あくまでたとえです)、レベルアップし、宝を手に入れて新しい現実を手に入れる。
それはまさに、ジョセフ・キャンベルが神話の伝承から発見した典型的な物語のパターンであり、その形は今まである小説のそれと大きな違いはありません。
しかし『夏の騎士』が強く印象的で面白いのは、登場人物がそれぞれ、相互の人間関係によって成長していく、それぞれの物語でもあるということ。
例えば、本書ではヒロインらしからぬヒロインが登場し、主人公たちの成長の導き手になるわけですが、ヒロイン自身、主人公たちとの出会いによって、著しい成長を遂げ、まさに最後には、芋虫が美しい蝶に変わっていきます。
小説なのに映画を観ているような感覚
主人公とヒロイン、2人の出会いによって織りなされる物語は確かに古典的な英雄譚です。にも関わらず、なぜ、これほどまでにこの物語が心を打つのか?
それは著者の百田尚樹さんの天才的な文章力に、その秘密が隠されていると感じています。
まず最初から最後まで、徹底的に読みやすい。そして、ムダな描写を省いたシンプルな文章によって物語へと、かんたんに没入することができます。
そのため、登場人物は非常にシンプルながらリアルに、その存在を感じることができます。だから読者にとっては物語が、頭にスッと入ってきます。
読後、映画を観たあとのような圧倒的臨場感を感じる理由は、まさにここにあると感じました。
なぜこんなにも読みやすいのか?
百田尚樹さんの小説はどれも文章が非常に読みやすく、まるで滑車を滑るように、一文一文をなめらかに読むことができます。なんというか、文章を読むのにストレスを感じないのです。
だからかんたんに物語の世界に入っていくことができ、主人公やヒロインの存在が、まさにすぐ身近にいるように、感じることができます。
おまけに『夏の騎士』は少年時代をテーマにしています。それは大人になった人誰しもが持っていた過去の断片であり、「そういえば、こういうやつがいたなぁ」という思い出を呼び起こすトリガーです。
小説を読みつつ、ふと思い出す過去の記憶。そして、自分にもかつてあった無垢で真っ直ぐな少年時代。ノスタルジックな気持ちが湧き上がると同時に、物語で展開していく主人公たちの成長。
それらが混ざり合い、
でもー百年責められたってかまわない。
P250
という最後の文章を読み終えたとき、最高級の絶頂を迎えることができます。そして、物語が終わってしまうのが寂しい・・・。
2時間ぶっ通しで読了
『夏の騎士』は単純に物語として楽しむこともできますし、自分自身の過去をふと思い出すために読むことができます。そして、読み終えたあとはまさに「邂逅」という言葉がぴったりの、極上の読書体験ができます。
自分でも、購入後2時間ぶっ通しで最後まで読んでしまったというのは本当に信じられない話です。
それは物語が短いのではなく(250ページあります)、本当に先が気になって仕方なくて、ページをめくるスピードがアップした話です。
おまけに文章が読みやすくわかりやすいのでストレスもゼロ。この点、長編小説にも関わらず、全く途中でダレずに最後まで読め終えたこと。自分でも驚いているくらいです。
なにせ、『夏の騎士』を読み始めたのは夕ご飯前の6時くらい。夕飯を作るのを完全に忘れて読み終えてしまいましたよ、マジで。
最後に
ということで、この記事を目にした方が『夏の騎士』を読んでその感動をなくさないようにネタバレなしで感想を書きましたが、読後は清涼感たっぷり。
「感動した!」としか言いようのない最高の読後体験ができました。
もう自分には少年時代の頃のういういしさや真っ直ぐさを取り戻すことはできません(それが大人になるということでしょう)。
それでもかつてそういう自分がいたということを、『夏の騎士』を読んで思い出すことができました。
一緒に秘密基地を作って、ドラクエごっこをして遊んだ友人たち。女の子の不思議さを教えてくれたクラスメートの子。読後は少年時代の思い出が、走馬灯のように駆け巡りました。
ということで、「おすすめ」という言葉は本当に安易ですが、これは本当に感動できた本。読書好きの方は極上の物語を楽しむことができます。
特に、大人になって現実で鼻息を荒くする日々を送っている方は、この本で自分にとって大切な何かを、思い出すきっかけになるかもしれません。
参考になれば幸いです。