妻、夫、母、誰もがみんな、知らない顔がある。
百田尚樹著『幸福な生活』(祥伝社文庫)の読書感想です。
この本について
「秘密」をテーマにした小説。
サスペンスやホラーチックなもの、ファンタジー、19のショートストーリーが展開され、どの物語も、「ラスト1行」で「そうだったんかいな」とドキッとしてしまうのがこの小説の面白さ。
それぞれのストーリーはこんな感じ。
※ネタばれがあります
【母の記憶】
老人ホームの母親を見舞いに行く市役所勤めの公務員の「僕」。認知症を患う母親に会いに行く親孝行息子。
父親を捨て女手一人で「僕」らを育ててきた母親はボケているものの、「道子さん(「僕」の妻)を殺したのは、私なのよ」などおかしな話をして「僕」を困惑させる。
が、嘘のなかに真実あり、「父さんは私が殺して埋めたのよ」とつぶやく。
→ぼけて嘘ばっか言っていると思ってた母親が、実は家を出て行ったと思ってた父を殺していたというオチ?
【夜の訪問者】
実家が金持ちで愚鈍な玲子と結婚したものの浮気をして妻を裏切っている「俺」。
ある晩、自宅に浮気相手がやってきて、動揺する俺。浮気相手を送るとき「奥さん、あなたの浮気、分かってるわよ」と忠告。
家に帰ったあと、こっそり妻の荷物を見てみると・・・。
→「俺」の浮気の証拠がびっちり。完全に浮気を知っていた上で、玲子はニコニコして「俺」に接していた。
【そっくりさん】
友人から池袋で自分とそっくりな人がいたという話を聞いた「平凡な顔立ち」の主婦の芳子(夫の昭雄は隠れホ◯らしく、芳子は疑念を抱いている)。
ある日芳子が外出すると、夫に瓜二つの男を発見。おまけに夫と同じアザまで。男は「ひろし」と呼ばれているのを聞いてしまう・・・
→夫は妻の知らないところで全く別の暮らしがあり、ホ◯疑惑は真実だった。
【おとなしい妻】
気の弱い女、早苗の話。夫である「私」は、家庭的で家事が好き、女らしい早苗のことを愛しているが、早苗の過去は複雑。
父親からの虐待等、精神的にもろい女性で、引越し先のマンションに知り合いもなしで、引きこもりのような暮らし。そのことを「私」は心配している。
おまけに、自治会長のおばばに嫌われてしまったため、近所のガキどもからも早苗が嫌がらせされていることに「私」はカンカン。
こんな「守ってやりたい女」であるはずの早苗は、実はトラブルメイカーで、どんどんと揉め事を引き寄せ。
そして、ついに「私」は、妻が問題を引き起こす原因を知ることに・・・。
→守って上げたいような大人しい妻は二重人格者で、外で問題起こしまくり。
【残りもの】
40代目前に結婚した「私」。若い頃は美人でモテモテだったものの30を過ぎて結婚に焦っていたとき、理想的な夫雅彦と出会いゴールイン。
「こんないい人と結婚できるなんて!」と幸せを味わっているものの、ひょんな偶然から、夫の本当の姿を知ってしまうことに・・・。
→夫の雅彦は、連続婦女暴行殺人犯の前科者。
【豹変】
サラリーマンの俊夫(無名大卒、二流商社勤務)。妻の由香は一流大卒で大手新聞社に勤務するやり手で、俊夫よりも学歴収入は上。おまけに美人。
俊夫は妻に頭が上がらないものの、夫婦仲は良好。ただし、2人は子どもができないことを気にしている。
そこで俊夫は自分の生殖能力に疑問を抱き病院で検査。すると、俊夫は通常の行為では女性を妊娠させられない状態であることが判明。
悩んだ俊夫は妻にそのことを告白しようとすると、妻は「できちゃった♡」とおめでた発言。
→愛らしい妻は、実は他の男と肉体関係があることが判明。
【生命保険】
主婦の淳子。一流大卒、美人OLとして活躍していたものの、三流大卒、中小企業勤めの夫、裕之と結婚。
もともと淳子は、イケメンの男(松本)に惚れていたが、ある晩、店でチンピラに絡まれ、そこで男気を見せた裕之と結婚することに。
が、実は、淳子が裕之と結婚することになったこの事件、実は全て裕之が淳子をモノにするための仕込みだったことが判明。
→淳子に絡んできたきたチンピラは裕之の仲間。
【痴漢】
電車で痴漢冤罪にあった50歳の英男。
ある日電車に乗った英男はOL風の女(正体はやくざの一味)から「この人痴漢です!」と糾弾され、周囲の男たちに囲まれ連行されることに。
痴漢裁判の恐怖に震える英男は「金でなんとかしたい」と女にお金を払うことを提案。
その場で50万払い、なんとか問題を解決するものの、それからはまた女たちにたかられるハメになるが・・・。
→実は英男は元プロの殺し屋。最後は英男が限度を超えた女らを制裁、皆殺しにしてめでたしめでたし。
【ブス談義】
医者の由宏。妻の真美(鈴木京香似)は30代なかばだが、20代に見えるほどの美人。由宏はこの妻の真美を自慢している。
由宏は女の価値=容姿と考える男で、女を見ては仲間とブス批評を繰り返す男。
学生時代は、独身の数学教師の女性や同級生の子に辛辣な言葉を浴びせたりと、ブスをとことん嫌う。
美人の真美と結婚、ブス嫌いの由宏だが、彼の悩みは自分の娘がブスなこと。妻の真美が美人なのに、なぜ、娘がブスなのか、由宏はその理由をついに知ることに・・・。
→昔ブスブスとバカにしていたの同級生の女が妻の真美の正体。容姿を真美が好きな鈴木京香風に改造し、由宏と出会いを計算し由宏をターゲティング、見事結婚。娘には本来の容姿が遺伝。
【再会】
OLの深雪。「私」が会社で仕事中、大下という男がやってくる。この男は深雪の別れた夫で、深雪にはさんざん酷いことをしてきた。
ところが、再会した大下は、痩せこけ顔色も悪く、深雪に「謝りたくてきた」と、以前とは全く違う人間になっていた。
自らの悪い行為を心から詫びる大下、そしてそれを受け入れる深雪。ところが、その後深雪は電話で、大下は深雪が会ったときにはとっくに死んでいたことを知る・・・。
→このオチはよく分からない。
【雪女】
母親の死について語る巳吉雄。
雪が激しく降った日、母親が運転する車が事故。母親は死に巳吉雄は入院。入院中の病院で巳吉雄は妻の雪江と出会い、結婚する。
事故について細かい記憶は失われていたが、なぜか事故のことを思い出し、宇宙人について語り出す・・・。
→同上。
【ママの魅力】
小学3年生の「ぼく」。母親は口うるさく、いつも小言が飛んでくる。100kgを超える巨漢で身長も170cm(父親はガリで母親より背が低い)。
ある日、近所の猛犬が檻から抜け出し、暴れ回り「ぼく」を襲撃。それに立ちはだかったのが母親。犬との激闘に勝利した母親は周囲の注目を集める・・・。
→母親の正体は伝説的プロレスラー。
【淑女協定】
会社員の「俺」。集まったパーティーで課長のもと愛人はどうだとか、◯◯課の女性社員は誰々とどうだとか、同僚たちと女批評。
「自分だったら妻の昔の男関係を周りの連中が知っているのは嫌だ」と職場結婚に嫌悪感を抱く。
そういう「俺」は、妻の絵理を大学の後輩が主催したお見合いパーティーでモノにした。「昔の彼氏が3〜4人いようがOK、そのなかに知り合いさえいなければ」という考え。
絵理は地方出身でおとなしい感じの女で、料理もして、「俺」は当たりを引いたと思っていたが・・・。
→嫁は元派遣ソ◯プ嬢。お金でたくさんの男に体を許してきた女だったというオチ。
【深夜の乗客】
タクシー運転手の安夫。客をつかまえようと車を走らせているところ、白いレインコートを着た若い女を乗せることに。
愛想の悪い、気味が悪い女で、歌を歌ったり、奇妙な行動を繰り返す。何とか女を家まで届けたものの、女は無賃乗車。
女は家へお金を取りに行くといい、家の中へ。しかし安夫が待てども待てども女は家から出てこず。
そこで安夫は家をノック。するとそこから老婆が登場。無賃乗車の女の話をすると、老婆は遺影を持って「この子ですか?」と女の顔を聞く。
「今日はこの子の命日なんですよ」と言う老婆、そこで安夫はあることを思い出す。「5年前も同じ詐欺に引っかかったな」
→幽霊ネタかと思いきや、タクシー料金詐欺のインチキを見抜く話。
【隠れた殺人】
父親を亡くした50歳役所勤めの一郎。一郎と同居していた父が死に、妹や弟ら、家族で亡き父の話をしている。
父親は自宅で死亡、父親の死因がよく分かっていない。兄弟たちは「一郎兄貴は父親と仲が悪かった、兄貴が殺したんじゃないか?保険金目当てで」などと冗談を言っている。
そんな父親は、自分の死を悟ったようで、死ぬ前から、いろんなものを処分し始めた。書類などはシュレッダーにかけ、何が書かれていたのか、誰にも分からないように処分していた。
そんななか、父親がこっそり隠していた箱根細工を発見。兄弟たちはそれを明けてみると・・・。
→長女の幼なじみで昔溺死した女の子の裸の写真や下着を発見、父親はロリコンの殺人者だったというオチ。
【催眠術】
結婚早々、妻の尻にしかれている真一。会社の友人から習った催眠術を妻に試し成功。
妻に「誰を一番愛しているか」「何人の男と関係を持ったのか」などを妻に質問、自分への愛情を知ろうとするが、妻は3日前に真一の上司の男と肉体関係を持ったことを告白。
「上司と妻が浮気してんのか・・・」と落ち込む真一だが、妻の眼がぱっと開き・・・。
→「お前の催眠術なんかにひっかかるか、ドアホw」とめでたしめでたし。
【幸福な生活】
妻と娘を持つ山田。娘の蓉子が恋人を家に連れてくることになっており、山田や妻は落ち着かない。
山田は銀行マンとして細く長く暮らし、大きな成功をつかむことはなかったものの、致命的なミスを侵さず、それなりに成功した人生を送ってきた。
妻とそれまでの人生を話し、「俺達の人生は大きなことはないけれど、平凡だけれど、それが一番の幸せなのかもしれない」としみじみする。
山田の人生唯一の秘め事は、新人のめぐみと浮気をしたこと。
美人で男たちの注目の的になっていためぐみはなぜか山田を慕っており、山田に女の大切なものを捧げる。
山田はめぐみのことを思い出し、悦に浸るが・・・。
→山田の人生の回想は全ては夢だったというオチ。山田と家族は交通事故にあい、山田だけが生き残り、植物人間状態になっている。
感想など
「もう体験しましたか?ラスト1行の衝撃を!」という帯に釣られ購入。
ショートストーリー集ですが、濃い話がいろいろあって面白かったです。
「豹変」とか「ブス談義」とか「淑女協定」とかはえげつけなさ、ゲスさがたまりませんが、「痴漢」の話はスッキリして良かったですねぇ。
真面目に暮らしているおじさんがチンピラ詐欺師らの痴漢冤罪の罠にハマってお金を脅し取られる話ですが、オチがそうくるか、と。
ホラーチックな話だと「残りもの」とかもなかなか。あぁいうオチがリアルにあったら戦慄してしまうかも。
こんな感じで、最後のオチを楽しむための話ばかりなので、気軽というか、肩凝らず、小説を楽しめます。
幸福な生活の裏側には、もしかしたら何か隠されているものがあるかもしれない。誰もが秘密を隠して生きている。
そんなふうに想像して読むと、いろいろ楽しめますよ!
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