『影法師』の読書感想 – 男は自分の人生を棄てた、友のために

影法師 (講談社文庫)

友のために自分の全てを棄てて生きる、そんな男のこんな生き様。

百田尚樹著『影法師』(講談社文庫)の読書感想です。

この本について

江戸時代をテーマに、男の友情、信念を描いた時代小説。

主人公の勘一は貧しい武士の家に生まれ、様々な苦労を重ねたものの、やがては筆頭家老にまで上り詰め、藩のために全力を尽くす名宰相になります。

そんな勘一のもとに、幼い頃の親友だった彦四郎が亡くなった知らせが。

彦四郎は勘一と刎頚の友の契りを交わした男で、常に勘一の支えとなってきた男。武芸学問が優秀なだけでなく、人柄も優れた彦四郎ですが、ある事件が。

それによって彦四郎の将来は絶たれてしまい、彼は藩から抜け出し、流浪の者として彦四郎の前から姿を消してしまいます。

勘一は彦四郎の死後、彼が流浪の身でどんな人生を送ってきたか、その真実を知ることになります・・・。

以下ネタバレがあります

貧しい武士に生まれたものの、「領民のために尽くしたい」と願う勘一(彰蔵)は、藩の干潟開拓事業など、領民のために全力を尽くします。

しかし彼の前には欲まみれの悪い家老の妨害行為で命の危険が何度も訪れます。

悪い連中から勘一を影で守っていたのが彦四郎。勘一の大志を知った彦四郎は、自らの人生を棄て、勘一を守る影として一生を送ります。

そのことを決して勘一には知らせず、最期は故郷で静かに亡くなりますが、勘一は、自らの政治活動の裏、いかに自分が彦四郎に守られているのかを知って驚愕。

友の死に涙し、物語は終わります。

感想など

読後、タイトルの『影法師』の意味が分かって深い感動を覚える小説。

貧しい生まれながら、人々のために役立ちたい、その思い持ちながらも下級武士という家柄のため、政に参加できない勘一。

その勘一の志を知り、友に己の志を遂げさせたいと、自らは捨て石となり、人生を棄てた彦四郎。2人の友情に涙なくしては読めない話で、読後はしばし、感動で放心状態になってしまいました。

印象的だったのは、自分の将来も名誉も家も、全て友の意志のために差し出した彦四郎と、素晴らしい剣技を持ちながら金で悪い家老に使えた島貫の対比的な生き様。

同じ「影」でも、一人は金のため、理念も信条もなく、悪い男の刃となって人を切った侍。もう一人は友のため、大義のため、多くの領民のため、影となった侍。

彦四郎の生き様を知った島貫は「俺も人を生かす剣になりたかった・・・」と話すシーンがありますが、彦四郎と島貫、2人の対比はとてつもなく重いものを私たち読者に投げかけてきます。

光あれば影があり、光が生じているなかに影があって、その影が、光を支えている。

彦四郎の人生はまさしくその影で、勘一には何も語らず、全てを背負い、勘一が己の役割を果たせるよう、全力を尽くしている。

彦四郎のおかげで勘一は「領民のために尽くしたい」という思いを実現でき、領民の暮らしは豊かに。

しかし、彦四郎は、自分の人生も名誉も、全て失い、最期は病気でひっそりと死んでいく。誰にもその活躍を知られずに。

友のやろうとしていることは多くの人の役に立つ。その志を実現させてやりたい。そのために、自分の何もかも棄てて生きる。

彦四郎が犠牲を尽くしたおかげで、勘一は光ある人生を送っているが、彦四郎の人生は影そのもの。

このことを考えると、100%スッキリはしませんが、でも、「こいつのために自分を犠牲にしてもいい!」と思える人がいる人生は、幸せな人生なのかもしれませんね。

いやぁ、感動した。

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