会社経営は社員の幸せと地域への貢献。
リストラなし、創業以来48年連続増収の経営の理念をこの本で。塚越寛著『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)の読書感想です。
内容について
長野県にある寒天メーカー、伊那食品工業の会長さんの本です。
伊那食品工業は、創業以来開始は増収を続け、リストラなしの年功序列経営で成功している、日本でも数少ない老舗中小企業。
そんな伊那食品工業の経営姿勢、企業経営の考え方について書かれているのが本書です。
この本を読むことで、成功している中小企業がどのような姿勢で経営されているのか、成功の秘訣を勉強することができます。
以下本書の気になった内容の要約です。
会社経営の基本は会社の永続と社員の幸せ(P15~)
会社は続けることと、会社で働く社員が幸せになることに意味がある。会社が揺らがないように安定させ、余裕を持ち、地域貢献や社員の幸せを考える。
もちろん、会社が続かせるために、利益確保も必要。
しかし、だからといって、利益至上主義になってはいけない。「儲け」を会社経営の中心に置くと、「人」の扱いがおろそかになってしまう。
利益を出すために、社員の労働量を増やし、無理な営業をかけさせたり、福利厚生費用を削ってしまうことで、社員は不幸せになる。
会社存続の目的である社員の幸せに矛盾しないように、数字中心の経営をしてはいけない。
良い会社とは自分たちを含め、関わる人すべてを幸せにする会社のこと。(=悪い会社は、自分たちだけ得をして、関わる人すべてを不幸にする会社。)
上場することのデメリット(P21~)
会社を上場させれば、多額の資金援助が受けられ、積極的な経営ができるものの、一方で決算という楔に縛られるリスクもある。
人から資金の援助を受けるということ=人から経営方針を口出しされること。
会社の理念を理解していない投資家、儲け主義の投資家からは「数字上の結果」だけ求められることになる。
そのため、経営も、近視眼的にならざるを得ず、長期的な戦略が立てにくくなってしまう。
急成長するな(P25~)
会社が急激に成長するのは危険。
たくさんの利益を出し、会社組織を大きくしていくと、必ずスピードの速さによる負荷が生じる。
体だけでかくなって、中身が整っていない会社になってしまう。
設備、人員、何事も、身の丈に合わせて、じっくり小さく、ジワジワと成長させていく方が、長生きできる。
身の丈に合わない成長は、のちのちツケとなって返ってくる。
ブームについても同じ。ブームは幸運ではなく不運。ブームの後は必ず儲からなくなるので、ブームで儲けたお金は散財せずに貯めておく。
後世の歴史家が今の平成の世を評価するなら(P34~)
今の時代、モノは溢れ、便利なサービスはたくさんあるのにも関わらず、人の幸福度はむしろ減っているのではないか。
倒産する企業も多く、貧乏な人も増えている。これはどういうことなのか。
原因の1つは、「利益を出せば何してもいい」という利益至上主義の企業の考え方。儲けを優先させる企業の姿勢が、そこで働く社員、関わる人たちに影響を与えている。
利益中心の考え方は、無秩序な競争をもたらし、「自分さえ良ければいい」という風潮を生む。結果、人と人との争いを、醜く汚いものにする。
アメリカのリーマン・ショックなど、虚飾のマネーゲーム的競争から抜け出し、今こそ、会社=社会の公器としての立場を考え直す時期が来ているのではないか。
目先の「合理化」を止める(P39~)
利益中心の会社運営では、目先の利益に飛びついた、稚拙な経営しかできない。
安易な社員のリストラ、福利厚生費用の削除など、「合理化」の名のもと、目先の利益を求めた安易な行動はやめるべき。
ブランド化を目指す(P54~)
販売する商品を適正価格で売る。取引先も、適性な価格で取引する。そして、会社も儲かる。三方良しの関係こそ、会社が目指す方向。
そのためには、お客さんに信頼される商品を作り続け、会社の商品をブランド化する。「この会社の商品は安心」と信頼されることこそ、経営のカギ。
適性な価格で商品を売るには?(P61~)
会社として利益を出すには、適性な商品を、付加価値をつけ販売すること。
コスト削減という方向を目指すのではなく、適性な価格で買ってもらえるよう、安値ではなく適正値での販売を目指す。
結局、成果主義は上手くいったか(P70~)
能力による給与アップ、年功序列を配した経営制度を取り入れた企業は結局どうなったか。
成果主義は手軽にリストラするための言い訳にしかならず、社員の幸福度にはつながっていない。
成果主義で給与が上がる人もいるが、長期的に見れば、むしろマイナスで、仕事も「結果」だけ求められ、やりにくくなってしまう。
取引先の選び方(P74~)
付き合う相手は1にも2にも信頼性。長く付き合えるかどうか。信頼できるかどうか。損得で付き合う相手を選ばない。
相手に無理を言って利益を確保しようとする会社、こちらを騙す会社、一緒に繁栄できない相手とは関わらない。
「買ってやるこちらが偉いんだ」という相手は切ってOK(P88~)
大企業や大口の取引先でも、「こちらが偉いんだぞ」と傲慢になってくる相手とは付き合わなくて良い。
一時的に利益が確保できても、そのうち無理を言われ、安定した経営ができなくなる。なので、一時的に売上が下がっても良いので、こちらから取引を辞めさせてもらう。
過度な値引き、強引なサービスは商売の質を下げてしまう。「良い物を適性価格で売る」という原則を忘れてはいけない。この原則を守ることが、長期的な安定につながる。
安売りを目指さない(P92~)
商売は良い商品を適正価格で販売すること。既存の安売り競争に入らないよう、自ら新しい商品を作り出し、市場を作る。
こうすることで、価格競争から「一抜けた」ができる。
株式市場はマネーゲーム(P100~)
上場企業は、社員の幸せよりも株主の利益を優先する仕組みになっている。だからこそ、長期的な利益より、目先の利益にとらわれてしまう。
現状、今の株式システムは、マネーゲームのようなもので、「現場で働く人」の幸せには関与しないシステムになっている。
会社の利益を優先させるため、社員の働く幸せを犠牲にする必要も出てくる。
環境整備について(P128~)
働く人の環境は、その人達の状態を表すもの。
汚い場所には汚い人が集まってくる。だから掃除をしっかりして、常に働く場はキレイにしておく。キレイな場所に人は集まってくる。
感想など
この本を読んでまず最初に思い浮かべたのは、岐阜にある超ホワイト企業と名高い未来工業の社長さんの本です。
伊那食品工業さんにしろ、未来工業さんにしろ、独特の経営方針で成功している中小企業というのは、
1)社長に確固たる経営理念がある。行動にブレないし、利益中心で無理な行動をしない。
2)ニッチ分野で圧倒的なシェアを誇っている。だから企業自身強い。
この2つのポイントがあるように思います。
周りがやっているからといって、自分はやらない。「私はこういう風に会社を成長させたい」という明確な視点を持って、他がどうであれ、信念を持って会社を運営していく。
それと同時に、「ここでは絶対勝てる!」という強みを持って、そこで圧倒的な実績を残す。だから会社も儲かり、信念を貫く経営ができる。そんな印象です。
個人的に感動したのは、「利益よりも人」を大切にするという、塚越会長の経営理念です。
本書では、アメリカ式の株式会社システムに疑問を提示している内容が多々ありますが、実際塚越会長の懸念通り、今の日本社会は、儲けたもの勝ち、やったもの勝ちの社会になっています。
社員をリストラしたCEOが高額報酬をもらう仕組みもおかしいと思いますし(トップは責任を取らない)、強いものはますます強くなり、弱いものはますます弱くなっていく・・・。
そんな世の中、少し街を歩けば、「自分の都合第一」と言わんばかり、店員さんに怒鳴りつけている人、仕事に出ればモンスタークレーマーのような人と関わる機会も多いと思います。
この原因の1つは、やはり今の競争社会が根本にあると思います。
利益、結果。それを出せないとダメですし、「まじめに誠実に」していれば報われる世の中ではありません。声のデカイ人間が目立つ世の中、ギスギスしているのが今の日本ではないかと思っています。
しかし、こんな世の中、働くことが周りや生活している地域に貢献でき、「働いていて幸せだ」と感じられる場所があれば、それはきっと僥倖に違いありません。
そんな会社が増えればいいですね。