司馬文学の正しい読み方が分かる本。『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』の読書感想

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

歴史とは、明確にされた経験である。

磯田道史著『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』(NHK出版新書517)の読書感想です。

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この本について

司馬文学をもとに、日本の歴史の流れやパターンを読み解いていく本。

戦国時代の下克上から天下泰平の江戸、そして幕末での維新、明治から昭和。日本の歴史がどのように変化して変わっていったか、歴史について俯瞰的な視点を与えてくれる一冊になっています。

以下、本書の読書メモです。

はじめに(P5)

司馬史観について。「司馬遼太郎を読めば日本の歴史が分かる」という話があるが、それは半分正解で半分間違い。

その理由は、司馬文学はあくまで文学であり、歴史そのものではない。

また、司馬文学は司馬遼太郎独自の歴史の見方によって執筆されており、それを理解しない限り、正しく作品を読むことができない。

この意味で、司馬文学を読んで歴史を理解した気になるのは歴史を読み誤る可能性がある。

歴史に影響を与えた人物(P14)

日本史において重要な影響を与えた人物は、頼山陽、徳富蘇峰、司馬遼太郎の3人。

頼山陽は『日本外史』を執筆し、日本が本来天皇家が治めていた国で武家の世は借り物であるということを当時の日本人に認識させた。頼山陽の思想が、後の尊皇攘夷の思想へと発展し、明治維新を実現させた。

徳富蘇峰は『近世日本国民史』を執筆し、日本人の歴史観をハッキリと規定した。国の成り立ちの歴史を、過去の資料に基いて日本人に認識させたのが徳富蘇峰であり、司馬遼太郎もその流れを引き継いでいる。

戦後の日本で、資料に基いて様々な歴史作品を執筆し日本人に供給、歴史観を日本人に広めたという点で、司馬遼太郎の功績はとてつもなく大きい。

動態と静態の文学(P24)

司馬遼太郎と藤沢周平について。

よく対比される2人だが、司馬遼太郎は動態の文学者であり、藤沢周平は静態の文学者。

司馬文学は時代のダイナミズムや社会の変動を描くのが特徴であり、歴史がどのように変化していくか、どんな力が働いて歴史が変わるのかを描く文学なのが特徴。

一方、藤沢周平は、既に完結された世界の中、そこで生きる人々の生活や人間模様が緻密に描かれているのが特徴。

だから2人の文学は同じ歴史作品でも、動態と静態、違った魅力がある。

司馬遼太郎の信長・秀吉・家康観について(P36)

信長は徹底した合理主義者で美しいものが好きな芸術家肌の男。秀吉は人間好きで人に好かれる柔軟性のある男である反面、即物的な価値観の男。家康は現実主義者で合理的ではあるが、信長とは違い遊び心がない男。

これが司馬遼太郎が持っている戦国の三英傑のイメージ。

彼らの違いは女選びでも明白で、信長は美しい相手なら男でも女でもOK。自分が美しいと思うかどうかが重要で、女に子どもを産ませるとか、そういう現実的なことよりも自分の価値観が重要。

一方秀吉は身分に劣等感があったため、身分の高い女ばかりを追いかけて自分のモノにしていった。このことからも、秀吉が即物的で、権力と富と地位に熱心な男であったことが分かる。

最後に家康はその現実主義的な性格が女選びにも現れており、子どもをきちんと産める現実的な相手を好んだ。

そのため、家康の女はバツイチや未亡人が多い。家康にとって女とは道具であり、子孫繁栄、徳川家を守るための手段であった。

そういえば、戦国ゲームの『仁王』で家康の娘という設定で登場してくるお勝ちというキャラが「私たちは道具。あいつ(家康)は徳川家を守るためには私たちの命などどうとも思ってない」的な発言をしますが、これも司馬史観に基づいた家康のイメージなのかもしれませんね。)

歴史の変化について(P62)

人間の歴史は、激しく動いていく変動期と、一度完成したシステムが長く続く静穏期の繰り返し。

前にあったものが壊れていく、そして新しいものが作られ、それが一定の期間を経てまた壊されて新しいものが作られる。歴史はそうやって動いていく。

日本人がエコノミックアニマルになった理由(P75)

戦前の日本人は「神州不滅」や「七生報国」とか、精神的な思想によってひどい目に遭った反動で、目に見える物質的なものを強く欲するようになった。

その結果が高度経済成長から始まる物質文明であり、バブル時代の物質至上主義社会。精神性よりお金やモノに価値を置くようになったのは過去からの反動が大きい。

明治維新成功の秘訣(P120)

時代が江戸から明治に変わり、日本があれだけ短期間で大きく変化することができたのは、江戸時代の人々が素晴らしかったから。

勉強熱心であり勤勉。公共性があり、庄屋システムに代表されるように、人と人とが協力し合う体制がムラレベルで作られていた。

人々の知的レベルが高く、おまけに権威に従順。そんな土壌があったからこそ、明治維新は奇跡的な変革が可能だった。

精神主義の危険性(P137)

日本人はとかく根性論、精神論に走りがちでだが、精神論に走る前にまず大切なのはリアリズム。

リアリズムを無視するのはただの蛮行であり、自殺行為。格調高い精神を持つだけでなく、そこには徹底したリアリズムが必要。

日本人と前例主義(P153)

日本人は昔から前例にとらわれやすい「経路依存性」を持っている。これは合理主義とは対局の考え方で、現実を見るより、前例で物事が決められてしまう傾向がある。

前がどうだったから自分もこうしよう。今の時代も前例主義が続いている組織が多いのは、日本人が前例主義にとらわれやすい体質を持っているから。

日本人の強み(P177)

日本人の最も優れた特徴は共感性。どうしたら相手は喜ぶか、なぜ相手はつらそうにしているか、そういった人の気持ちを読み取る能力が優れている。

グルーバル化、多文化していく社会のなか、日本人のこの能力は大きな武器になる。相手の気持ちが分かる、文化が違う人たちとも上手くやっていこうと適応できる。

日本人はこの能力を生かして世界で活躍できる。

感想など

「司馬作品はこのような考え方に基いて書かれている作品なのか」ということが分かって、もう一度司馬作品を読んでみたくなる本。

特に面白かったのは、明治維新の成功から日露戦争後、なぜ日本が敗戦へと進んでいったのかという考察。

「鬼胎の時代」というキーワードを元に、敗戦に至るまでの経過、原因が語られ、戦後日本語が高度経済成長から物質至上主義の社会になったのか、読んで「なるほど」な話が満載。

歴史が動くときそこには必ず原因があることを実感させられます。

単純に読み物としても面白く、この本を読めば、司馬作品(特に『国盗り物語』や『新史太閤記』、『花神』あたり)をより深く理解できます。

日本史を振り返りつつ、司馬作品についてより深く理解したい。そんなときはこの本が、その案内を務めてくれることでしょう。

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