小説を書いて食べていくこと、きっかけなど。
村上春樹著『職業としての小説家』(スイッチパブリッシング)の読書感想です。
この本について
『風の歌を聴け』『ノルウェーの森』などで有名な小説家、村上春樹さんの自伝的エッセイ。
「小説家という仕事はどんな仕事なのか?」
「そもそも、小説を書き始めようと思ったきっかけは何なのか?」
「小説家として仕事を続ける上で大切なことは?」
など、職業作家としての村上春樹さんの仕事論、作家としての考え方が分かりやすく語られた内容になっています。
以下、本書の読書メモです。
頭が切れる人は小説家に向いていない?(P19)
小説を書く上で、ある程度の知性や教養は必要かもしれない。
でも、人並み外れた知識を持っている人、頭の回転が素速い人は、小説を書くのに向いていない。小説を書く、物語を紡ぎ上げるという行為は、低速、ローギアで行われる作業だから。
小説家は、自分の意識の中にあるものを物語という形に置き換えて表現しようとする。自分の中のさまざまなものを引き出し、形にしていく。
それは、とても手間がかかる作業で効率が悪い泥臭い作業。スマートな要素はなく、一人きりで部屋にこもって、ひたすら文章をいじる作業。
手間がかかって辛気臭い。それが小説家の仕事。
小説を書こうと思った理由(P42)
1978年4月、神宮球場へ野球観戦。
試合を見ているとき、ふと「自分でも小説が書けるかもしれない」と何の脈絡もなくひらめく。その感覚は、空から何かが舞い降りてきて、それを上手く受け止められた感覚。
なぜそんなことが起こったのかは分からないが、それはエピファニー(epiphany、「直感的な真実把握」の意)であり、「突然目の前に現れた出来事によって、物事が一変してしまう」ような体験。
この天啓によって、小説家村上春樹が誕生する。
小説家は天職(P53)
小説を書く仕事は幸福。書こうと思って苦痛を感じた経験はない。楽しくないなら、やる意味がない。
「何かの理由で小説を書くチャンスを与えられた」と感じ、そのチャンスと幸運をつかんだからこそ、小説家として成功している。
小説家になるためには(P109)
小説家になる方法は正直分からない。
小説家になろうと思ってなったのではなく、小説家になるための特別な勉強、訓練を受けたわけではない。成り行きで小説家になり、運に助けられた部分が大きい。
ただ一つ大切なのは、たくさん本を読むこと。一冊でも多く、本を読むこと。それが小説家になるための基礎訓練になっていく。
規則正しい生活の大切さ(P141)
作家というと、昼夜逆転だったり、勢いに任せてバッと仕事をするイメージがあるが、小説家の仕事は規則性を持ち仕事をすることが大切。
毎日、「これだけは書く」という量をこなし、気が乗ろうが乗るまいが、ともかくやる。調子が良くて「もっと書ける」と思っても、一定量でやめておく。
規則性を持って毎日仕事をすることが、長い仕事をこなす上で、大切な意味を持ってくる。
文章は書き直す(P150)
どんな文章も、必ず改良の余地がある。どんなによく書けたと思っても、見なおせば、もっと良い文章になる。
作品を出した後の他者の評価はスルーすればいいが、作品を出す前は、どんな批判でもきちんと耳を傾ける。
村上春樹的日常(P166)
書き下ろし長編小説を書くときの暮らし。
書斎にこもり、机に向かってコツコツ執筆。朝早く起床し、毎日5~6時間、意識を集中して執筆する。
午後は脳を休めるために昼寝をしたり音楽を聞いたり、読書をして休む。運動不足にならないよう、1日に1時間は外出し、運動する。そして翌日の仕事に備える。
こんな暮らしが1年続く。
小説家だからこそ体力維持を(P168)
持続力がないと小説家は務まらない。
小説家として生計を立てるには、長期間書き続けられる持久力が必要。そこで、基礎体力をつけ、体の調子に気を配る必要がある。
作家は自宅作業なので、なおさら体調、体力に気を配る。
健康に気を配る(P185)
体、心の調子が悪いと良い仕事ができない。
フィジカル、メンタルは両輪の関係であり、仕事に影響を与える。心の健康と体の健康、両方のバランスを保つことが大切。
感想など
日本だけでなく世界でも熱烈な支持を受けている村上春樹さんの成功の理由が知りたくて手に取った本。
この本を読んでいて特に印象に残ったのは作家になったきっかけの話(P42~)。
自営業で店を開いていて、ある日野球を見に行って「小説を書こう」とひらめき、処女作が成功、作家業へ。
「ひらめきをつかみ運に恵まれた結果、小説家村上春樹が生まれた」というような内容でしたが、これを読んでいると、どうにも「天職」という言葉が頭によぎります。
「天職と出会ったときにチャンスをつかめるかどうかが、その後の人生が決定。ひらめきは突然やってくるので、まずそれをつかむことが大切。」
こんな印象を受けましたが、つまりは「ピン!」ときたことはやってみる姿勢が大事で、それによって人生が開けるのかもしれません。
可能性や天職など、いろんなヒントが身に沁みた本でした。