飾りのない直球&素朴な言葉に真実あり!
行方昭夫編集『モーム語録』(岩波現代文庫)の読書感想 です。
この本について
『人間の絆』や『月と六ペンス』で知られるイギリスの作家、サマセット・モームの語録集。
サマセット・モームとは
フランス、パリ生まれのイギリス人作家。8歳で母を、10歳で父を失い孤児となりイギリスへ。
医学の道へ進むも、1897年に貧民街の娘の物語『ランベスのライザ』を発表、小説家を志す。
1915年に自伝的小説『人間の絆』、1919年に『月と六ペンス』で人気作家となった。
人生、生き方、社会と個人、人間性、男女間、友情、様々なテーマで、現実的な名言が満載。「そうだ、確かに人生はそうなんだ!」と胸が震える内容になっています。
収録されているモーム語録のテーマは次の通りです。
語録の内容とテーマ
・人生とは何か
→人生の意味、人生模様、生き方、社会対個人
・人間とは何か
→共通のもの、人様々、女
・男女関係
→恋愛、恋愛様々、結婚、友情
・モーム自身
→回想、私人として、作家として、中年、老年
・芸術と文学
→芸術と芸術家、文学、作家、芸術の効能、文学の方法、劇、英語の文章、書き出し、読書、絵画
・人物評
→間接的にあった人物、面識のあった人物
・旅
→風土、イギリスとイギリス人、アメリカとアメリカ人、フランスとフランス人、スペインとスペイン人、ロシアとロシア人、日本人他
・哲学と宗教
→哲学と哲学者、宗教と神、死と来世
感想など
心に響く名言が満載の本。
恥ずかしながらモームのことは全く知らず、精神科医の岡田尊司さんの本を読んでいるとき、本の中にモームの名前が。それで「ピン!」と来て購入したのがこの本。
帯には「”皮肉屋”モーム」と書かれていますが、とんでもなくリアルで、現実的な言葉が満載。夢中になって読了してしまいました。
・P11
人生において時々経験することだが、何ヶ月も続けてある人と毎日会っていて、非常に親密になり、その人のいない生活など想像できなくなる。
ところが、その人との別れがやってきても、全ては同じように運んでいき、かつては必要欠からざる存在だった人も不要となってしまう。
ついには、多忙にまぎれてその人を思い出すことすらなくなってしまうのだ。
・P19
人生を送るのを困難にしているのは、どの行為も取り返しが利かないからだ。
何事も以前と同じようには起きないし、最も重要な事柄においてさえ、指針となる先例がないのだ。
どの行為も一回だけ行うものであり、誤りは修正できない。
・P20
年長者は過去をバラ色のモヤを通して見るため、とかく話はきれいごとになる。
・P21
金を軽蔑する人間を、私は愚かだと思う。金銭というのは第六感みたいなもので、それがなければ、ほかの五感もあまり働かない。そこそこの収入がなければ、人生の半分の可能性と縁が切れる。
・P46
大きな喜びを感じうる能力には、必ずそれに匹敵するほど大きな悲しみを感じうる能力が伴うものである。
鈍感な人は、強い喜びを感じないかわりに、激しい悲哀も感じないから羨ましい。最大の喜びには常に苦い後味を伴うし、苦悩はただただ辛いだけである。
など、ページをめくるごと、きれいごとなし、人生の現実を凝縮した言葉が心に迫ってきます。
特に、個人的に「ガツン!」と来たのは、モームの苦労に対する考え方。
一般的に、苦労すればするほど、人は成長し、人格が磨かれると考えられていますが、モームは次のように述べます。
・P127
私は苦悩が人を気高くなどさせないことをはっきり知った。苦悩は人をわがままにし、卑屈にし、ケチにし、疑い深くする。人を本来の性質よりも良くはしない。悪くさせるのだ。
早い話、苦労なんていいことない、人を悪くするだけだ、というのがモームの考え方。
では何が人を豊かに、鷹揚にさせるのか?
・P25
苦悩の結果、人は自己本位になり、自分の肉体や身の回りのことがむやみに重大に見えてくる。気難しくなり、愚痴っぽくなる。些細なことを重視する。
私自身も、貧乏、失恋の悩み、幻滅、失望、芽が出ないことへの恨み、自由の不足、等々の苦悩をなめたが、そのために嫉妬深く、無慈悲に、短気に、わがままになり、片意地になったのは否定できない。
これに反して、羽振りのよさ、成功と幸福は私をよほどましな人間にしてくれた。
不要な苦労は人を卑屈にさせて、心をねじ曲げてしまう。でも、成功して余裕ができたら、人はいい人間になれる。自分のことすら何とかならないのに、人のことに気を向ける余裕はない。
そんなリアリスティックで、偽善的な臭いのないモームの言葉は、気持ち良いくらいスンナリと心に飛び込んできます。
確かに、見方によっては「皮肉」に捉えられる言葉なのかもしれませんが、個人的にはモームの言葉非常に感銘を受けました。
本書はまさに、私の座右の書となりそうです。