「人として大きい」というのはこういうこと。
高橋是清著『随想録』(中公文庫)の読書感想です。
この本について
戦前の日本で財政を担当した高橋是清が晩年、政治や財政政策を始め、人間観や教育観を語っている本。
この本を読めば、その思想、人間性のスケールの大きさに度肝を抜かれる内容になっています。
以下、本書の読書メモです。
銀行家の使命(P63)
銀行は預金者を大切にするのはもちろんのこと、銀行のお金を使ってくれる融資先も大切にしなければいけない。
もし、融資先のお金の使い方に問題があるならばそれを指摘し、正しい使い方をするように指導していく。
それこそが本当の意味での親切であり、銀行の役割。
自分と他人を比べるな(P96)
人生でやってはいけないことの一つは、自分と他人を比較すること。とくに、収入に関しては、絶対に比較しない。
自分より稼いでいる人には「あいつは俺より収入が良い」という嫉妬心が芽生え、それが仕事にも悪い影響を与える。
つまりろくなことがないので、比較することは無意味だけでなく有害。まとまな社会人として働くならば、「自分は自分で人は人」を貫き通す。
人生の心得(P98)
人生は浮き沈みがあって当然。栄枯盛衰は必然であり、それを嘆いても仕方ない。
大切なのは良いときには悪いことの芽があり、悪いときには良いことの芽があることに気づくこと。
つまり、自分がいるどんな境遇にも意味があることを忘れないことが大切。
お金について(P101)
お金は人生で必要なものだが、お金を貯めることを目的にするのは本末転倒。お金は道具であり、使ってこそ意味がある。
また、お金を稼ぐことだけに走るのも良くない。お金はあくまで副産物であり、目的ではない。
金儲けだけのための行動は人として宜しくない。
人生で大成する人(P104)
自分の人生は自分のもの。つまり、人生はすべて自分の責任。
他人に依存せず、自分の意志を持って道を切り開く。自主独立の気勢なくしては、真の人生はない。
自らを信じ、努力して前進していく。そんな人は人生で必ず、大成する。
正しい道を進む(P110)
人生で飢えて苦しい生活を強いられたとしても、大切なのは「自分が正しい」と信じる道を進むこと。
自分が信じる道を進んでいけば、経済的に困窮しようが、人として後ろめたいものは何一つない。やがて、正しい状況に回帰していく。
人を採用する基準(P115)
人を雇うなら、「品性」を基準に選ぶ。
いくら学歴や才能があっても、品性が下劣なら、不正や手抜きなど、雇ったあとに後悔する問題を引き起こす。
勤勉や努力。常識。人としての品性が備わっている人を雇うのが一番の正解。
人として終わっている人(P153)
人生においてひたすら肉体的快楽を追っている人は人として下。精神的向上心、修養を身に着けようとしない人と関わってはいけない。
人事を尽くして天命を待つ(P172)
日々やるべきことをきちんとやっていけば、最終的になるべく状況になる。
たとえ目の前でおかしな状況が続いても、今自分ができることをきちんとやっていく。自分が正しいと思うことをやっていく。
そうすれば状況は正され、めでたしめでたしになる。
2つの自由(P373)
自由には、
1)好き勝手に振る舞うわがままな自由
2)社会のルールに則り、他人の権利を侵害しない範囲で振る舞う大人な自由
この2つがある。
人として大切なのは言わずもがな2)の自由であり、これなくして、社会の健全性は保てない。
感想など
400ページ以上の本でしたが、あまりのエネルギーに圧倒され、即日読了してしまった本。
高橋是清は「奇想天外な人生を送った財政の天才」というイメージしかなく、実際どのような思想を持った政治家だったのか、全く知識がありませんでした。
しかしこの本を読むと、真の楽観、自助独立。スケールが大きい人とはどんな人なのか。まさに具体的なイメージがつかめる話が満載でした。
政治や金融の話とか、いろいろありましたが、一番印象に残ったのは是清の人生観であり、人間観。
すなわち、人として気概を持つこと。自分の人生は自分で何とかすること。そんな、高橋是清の大きな思想に触れることができた一冊でした。