心のなかをこんなふうにのぞいてみると。『精神分析のおはなし』の読書感想

精神分析のおはなし (創元こころ文庫)

親子の葛藤も老いの悩みも、こんなふうに考えると意味があることが分かる。

小此木啓吾著『精神分析のおはなし』(創元社こころ文庫)の読書感想です。

この本について

人間の心や成長についての話を集めた講演集。

自立や依存、親子関係など、生きていく上で誰もが経験する問題を精神分析的に考察。心と人生について、興味深い話が満載の内容になっています。

以下、本書の読書メモです。

日本の「川の字文化」(P17)

日本の子育てにおいて、日本人は、赤ちゃんは生まれてから親と同じ部屋で寝るのが当然だと考える。これを川の字文化(父、母、その間に子どもが寝る)と言う。

日本人は戦後自立的な教育を受けてきたが、根本的なところでは、日本は依存し合う社会で、親子関係の根本は、依存によって成り立っている。

一方アメリカでは、個人主義、夫婦は夫婦、子どもは子どもとして独立して考えるので、赤ちゃんが生後1歳になったら、完全別室で親と子どもが分離する。

アメリカの子どもはこのように育てられることによって、個を意識し、自我が目覚める。

依存のあり方(P24)

イギリスの精神分析医、ウィニコットによる依存の区別。

ウィニコットによると、依存には1)絶対的依存と、2)相対的な依存、2種類の依存がある。

絶対的依存は、客観的には人に頼らずにはやっていけない状態であるけれど、本人が相手に依存している自覚がない状態。

全部自分の力でやっていると思っているけど、実はそれは、周りの誰かに助けられているからで、絶対的依存の人は、裸の王様のようなもの。

一方、相対的依存とは、本人も誰かに頼っていることを自覚している関係のこと。

自分は誰かに頼らないとやっていけない、そんな自分の無力感に気づき、人に頼ってやっていこうとする。これが相互的依存。

自立と依存(P31)

自立と依存は相互に関係する。

ある部分では誰かを頼り、それ以外の部分では自分できちんとする。自立しつつも誰かに頼る。この繰り返しで、人は少しづつ、成長していく。

人は人を必要とする(P45)

人は、甘えたり依存する対象を、一生必要とする。自立したからといって、ずっと個人主義、自立してやっていけるのではない。

誰かに頼るのは自然なこと。依存し合える相手、仲間、甘え依存し合う対象を持っている人が、精神的な健康を保つことができる

家族関係が一番難しい(P85)

親子=愛し合うものという建前があるが、現実問題、憎しみや恨み、親子ほど難しい人間関係はない。

親は愛情を持って子どもを育て、子どもは親を尊敬する。それができれば一番理想だが、現実はそうかんたんに上手くいかない。

家族は愛情だけではなく、ネガティブな感情を受け入れていくこと、それが家族の成長にとって意味を持つ。

夫が妻を支えること(P103)

子どもに対する母親の気持ちのあり方は、妻の妊娠・出産・育児に夫がどれくらい協力したかによって大きく変わる。夫が妻を精神的に支えることで、妻の安心して子育てができる。

中年の課題(P138)

中年の心の課題は、青年時代の親離れ、自立というテーマを、心のなかでもう一度整理すること。

思春期は親から離れ、自分らしいものをつくっていこうとする時期で、自分らしさを求め、自分なりの異性を見つけ、やがては家族を作っていく。

ところが、40代になると、今度は自分が親の立場になり、自分の子どもが思春期を迎える。

子どもが反抗期を迎えることで、自分がいかに親に迷惑をかけてきたのかが分かる。それによって、親との関係を見直そうという気持ちが出てくる。

ここで、親との関係が良好な人は、自分の子どもとも上手くいく。しかし、親との関係が整理できていない場合、自分の子どもとも上手くいかない。

親との争いが続いている人ほど、思春期の子どもとの争いが繰り返される

感想など

人の心の動き、成長は奥深く複雑だなと感じた本。

この本では、自立や依存、家族関係など、身近なテーマが題材の講演をまとめた本で、精神医学という難しい内容ながら、話し言葉で書かれているので、一つ一つの話がとても分かりやすく理解できます。

日本の特徴である「甘え」や子育て、面白い話はたくさんありますが、個人的に一番印象に残ったのは中年期にやってくる子どもの反抗期の話。

「親との関係が悪い人は、自分の子どもとも関係が悪くなる。家族の問題は世代を超えて循環していく」という話。

親との関係が深層心理では深くつながっていて、それが親だけでなく、世代連鎖して、子どもにもつながっていく

なんだか恐ろしい話ですが、考え方的には、

・父親との関係は社会性に影響する

→父親と良くない人は、年上の人と関係が上手くいかない

・母親との関係は人間関係に影響する

母親との関係が良くない人は人間関係、コミュニケーションに問題を抱える

これと同じような考え方でしょうか。

こんなふうに考えると、いろいろ複雑ですね。

親との関係、自分の気持ちが、それが他のところに影響している。自分の心のなかのモヤモヤ、未解決の問題が伝播して、影響している。

例えば職場の人間関係が上手くいかない人がいて、その原因がコミュニケーション力ではなく、親と上手くいっていないとか、兄弟と憎み合っているとか、家族に根っこがあると考えたら、納得できる答えが見つかるかも。

もしかしたら、目の前の問題の原因の根っこが、実は全然別のところにあるのかもしれない。

こんなふうに考えると、今抱えている問題も、それまでとは違う方法で解決できるかもしれませんね。

本の購入はこちら