これが一流経営者の人生哲学。
稲盛和夫著『稲盛和夫の哲学』(PHP文庫)の読書感想です。
この本について
京セラの稲盛和夫会長の人生哲学が語られている本。
人は何のために生きるのか、働くことは何なのか、人生の本質的な問題とじっくり向き合える一冊となっています。
以下、本書の読書感想です。
はじめに(P4)
人生は考え方次第。
どのように考えるか、それによって人生の結果はガラリと変わる。素晴らしい人生を送るためには素晴らしい考え方をする必要がある。
生きることとは(P35)
生きることは全て試練。
失敗も成功も、全てその人にとっての試練。目的は人間性の向上であり、目の前の試練に誠実に立ち向かっていくことが大切。
足るを知る(P77)
人の欲望には限りがない。
自分の本能や欲望を抑えることができない人は、どんどんコントロールを失い、自分ではどうしようもない状況にまで人生がめちゃめちゃになってしまう。
そのため、常日頃から自分の欲を抑え、それと同時に誰かの役に立つことを心がける。それが人として「善い」ということ。
人生を形成する要素(P110)
人生とは、
1・持って生まれた運命
2・因果応報の法則
この2つによって作られる。
もともと人には固有の運命があるが、それだけで人生全て決まるわけではない。
日々自分の行いが因果応報の法則によって、善い行いをすれば善いことが、悪い行いをすれば悪いことが自分に返ってくる。
このため、人生は運命だけで決められるものではなく、自分の思いや行動によって変えていくことができる。
人生で悩んだときの心得(P136)
人生には悩みがつきものだが、悩みにとらわれてはいけない。悩みがあってもそこから前へ進んでいくためには、
1・悩むヒマがあるなら、誰にも負けないくらい働く。
2・謙虚になる。驕ってはいけない。
3・毎日反省する。
4・足るを知ること。今生きていることに感謝すること。
5・自分だけなく相手のことも思いやる利他の心を持つこと。
この5つを胸に刻み、日々を生きていくことが大切。
働くこと(P163)
働くことはただ生きるためにすることではない。
働くことは人間の心を作ること。働くことによって、人間性が磨かれ、人は成長していくことができる。
感想など
一語一句、言葉が重い本。
輪廻転生など宗教的な話(一流の経営者がこのような話をするのが個人的には驚き)が飛び出すものの、なぜ生きていくのか、人としてどこを目指すべきなのか、本書の言葉には、心を揺さぶられる何かがあります。
あと、個人的に強く印象に残ったのは労働観の話。
「働くことは生活のためでなく、人の心を作るためでもある。みんなで勤勉に働き心を作っていく。これこそが労働の本質的な価値である」
的な話がP163にありましたが、これはとてもよく分かる判明、「誰が言うか?」によって、意味合いが全然変わってくる複雑なところだと思います。
例えば、社員を安い賃金で搾取する倫理観のないブラック企業経営者が、「働くことは人間性を高めることです。だからみなさんも仕事を真剣にがんばってください」ということを言いつつ社員をこきつかっている場合。
「仕事は人間性を高めるためである」という言葉はとても危険な言葉に変わります。
実際、美辞麗句を口にしながら、していることは人として下の下である経営者もいます。だからこそ、綺麗な言葉は、素直に受け取れないのが複雑なところです。
とはいえ、確かに、「働くことはただお金を稼ぐため、生きていくためのことでもない」というのも分かります。
仕事を頑張り、いろんな努力を続けることによって、自分が一皮むけて、人間的に成長できる。よりよくなれる。そういう側面も確かにあるのです。単純に、成長していく喜びを実感することができます。
だから、個人的には生涯現役。何歳になっても、自分のやるべき仕事は続けていきたいと思っています。仕事を全くしない人生ほど退屈な人生はないと思います。
このような具合、多分、本書の哲学は受け取り手次第。
自分の人生を高めていくために、自らの心構えとするならOKですが、誰かが本書の考え方を強制しようとするならば、多少注意したい方がいいのかもしれません。