持続可能なキーワードは八方よし。誰か一人ではなくみんな得する社会を目指す。
新井和宏著『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の読書感想です。
この本について
「いい会社」のみに投資をしているという投資ファンドのマネージャーが、これからの資本主義社会の在り方、正しい投資の在り方について語っている本。
資本主義を持続させ、より人々が暮らしやすい社会を作っていくにはどうすればいいのか、様々な刺激を受ける内容になっています。
以下、本書の読書メモです。
はじめに(P3)
現在資本主義社会が息切れを起こしている原因は強欲主義。
リーマン・ショックに代表されるように、「利益だけを目的とした資本主義社会の限界」が、その本質的原因。
金融が目指すべきもの(P6)
投資ファンドの本来の役割は、世の中の役に立つ良い会社を応援すること。
儲かるか儲からないか、それだけで判断するのではなく、長期でじっくり、世の中に役に立つ良い会社を応援していく。その本来の姿勢を取り戻すことが大切。
会社の資産(P9)
会社の資産には、目に見えるものと見えないものがある。
現金や預金、不動産は目に見えるので即座に会社の判断の材料になりやすいが、本当に大切にしたいのは社風や文化、社員の力、会社の理念など、目に見えない部分。
短期的な利益ばかりを追い求めると会社の目に見えるところだけしか見ないため、応援すべき素晴らしい会社を見逃してしまう。
利益は大事だが、誰かを応援する、投資会社本来の役割を果たすことが大切。
指標を作らない(P50)
本来会社は百社百様。何らかの指標を作って型にはめる存在ではない。
指標を作って会社の評価を画一化しようとすれば、会社は個性を失い(出資してもらえないから)、社会から多様性が失われてしまう。
日本経済が機能不全を起こしている理由(P73)
リターン=お金のみと考え、効率がすべてに優先する。
その結果どうなってしまったかというと、正社員と非正規社員、大企業と下請け、日本国内で様々な分断が進んでしまった。
日本はアメリカと違い、信頼感を前提とする独自の文化を育んできたが、グローバリゼーションに翻弄され、自分たちが持っている良さを自ら捨ててしまった。
その結果、企業は機能不全を起こし、日本経済の停滞を招いている。
目指すは八方よし(P91)
これからの社会の豊かさのカギとなるのは八方よしという考え方。
関係者のうち誰か一人だけが豊かになるのではなく、そこで関わる人全員が豊かになる。誰かの得が誰かの損にならない、そんな関係を築いていくことが重要。
企業も利益を最大化するために人件費を削って取引先を圧迫するなど、誰かを犠牲にして成長するのではなく、企業も社員も消費者も、皆幸せになれる道を探っていくことが重要。
なぜ経営理念が必要なのか(P97)
企業がステータスを持つ上で重要なのは、固定のファンを持つこと。ファンを作るためにはまず経営理念に共感してもらう必要がある。
経営理念とはビジネスをするための大義名分であり、経営理念に共感してくれる人が多ければ多いほど、企業は多くの人に応援され、成長していくことができる。
バブルの害(P105)
バブルが怖いのは、バブルができる過程で、欲の力によって信頼に基づいた経済を破壊してしまうこと。
欲中心に社会が動けば人々の間に分断が生じる。結果、社会は停滞し、人々の暮らしは苦しくなる。
キーワードは共通価値(P126)
八方よしの関係を目指す上で大切なのは価値観を共有すること。ともに同じ未来を見、それに向かって前へ進んでいく。この共通価値こそが八方よしの関係のベースとなる。
感想など
これからの資本主義社会の在り方、会社の在り方について、視野が大きく広がる本。
この本の著者は投資ファンドのマネージャーということで、どんな会社に投資するのか、投資する場合はどのような基準で投資をするのか、そこに興味を持ってこの本を読みました。
とはいえ、内容はいい意味で期待を裏切る内容で、これからの会社が目指す方向、持続可能な資本主義を目指していく上で何が大切なのか、読後は様々な刺激を受けます。
投資会社というと、失礼ながら、利益中心で「お金の増殖がすべて」的なイメージがありましたが、投資の本来の役割は応援すること。
いい会社があれば応援したい。その本来の気持ちを取り戻すことが、社会、会社、そこで働く人々、そしてその会社のサービスを受ける人々。
すべての人々にとって大切なことなのかもしれません。