大学を出て会社に就職。上司の指示に従って、サラリーマンとして自分がやるべき仕事をこなしていく。
しかしもし、上司の指示が間違っていたら?人としてしてはいけないことを命令されたらどうするか?
サラリーマンとして生きていく男たちの葛藤を描いた物語、それが『七つの会議』(集英社文庫)です。
この本について
本書は半沢直樹シリーズでお馴染みのベストセラー作家、池井戸潤さんがリコール隠しという会社犯罪について描いた物語。
舞台はとある新興の中堅企業。
会社を成長させるために過大なノルマを社員たちに課し、ある男は会社のやり方に反発。「魂だけは売らない」ことを決意して出世競争から脱落。
一方で別の男は「会社のため」と自身の行為を正当化。出世の道を進んでいきます。
ネタバレを避けるために細かい話は省略しますが、本書を読んで問われること。それは、正義や悪ではない人としての在り方です。
物事にラベルを付ける危険性
世の中、立場や見方を変えれば、誰が正義で誰が悪なのか。その判断が一瞬にして変わってしまうことがたくさんあります。
例えば、教師を挑発して暴言を吐きまくった少年が教師によって鉄拳制裁でワンパン。
少年が被害者ぶって動画を拡散する事件がありましたが、本当に暴力をふるった教師が悪なのか。裁かれるべき存在なのか。
拡散している情報を総合的に勘案すれば、鉄拳制裁をした教師を断罪するのは難しいと感じます。
確かに、教師による「暴力」という行為そのものは悪いことなのかもしれません。
問題は動機と事情
しかし、教師が「暴力」をふるい大人をなめきった悪ガキを制裁されたことによって、多くの人がそこにあった間違いに気づく。
制裁された悪ガキはおとなしくなり、結果的に大多数の生徒は、落ち着いた環境で学校生活を送ることができます。
でももし、教師が悪ガキを制裁しなければどうなるか?
悪ガキの行動はさらにエスカレート。他の誰かを傷つける悪になることは明白です。そうなればますます、被害者が増えていきます。
似たような話としては、商標ゴロ。
シンガポールの某スイーツ有名店のロゴや商標をパクって登録、本家を訴えるという非人道的なビジネス手法で炎上した某会社。
これも同じで、先に法律で権利を入手したパクリ会社は法的には「正しい」。が、それが人間的に「正しい」ことなのか。
疑問に感じた人も多いはずです。
だから世の中は難しい
このように世の中には、物事を一面的に良い・悪いで判断できないことがたくさんあります。
『七つの会議』のテーマはリコール隠しという企業犯罪ですが、本書では、登場する人物それぞれ、立場があり、思いがあります。
あるものは、会社の発展。あるものは人としての正義。
正直、誰が悪で誰が正義なのか。そういう視点で本書を読めば、そのメッセージを読みあやまる恐れがあると感じています。
正しいとか悪いとか、そういう視点で本書の謎を読み解くのではなく、では自分だったらどうするか。
投げかけられているのは自分の価値観。人としての在り方。そして責任なのかもしれません。
最後に
ページ数は500近く。
それでも先が気になって気になって、次々とページをめくっていく。本当に面白く、そして登場人物たちの葛藤を知るたびに、ふと考えこんでしまう。
そんな本でした。
リコール隠しそのものは確かに悪。
しかし、それを守ろうとした自己利益第一マンたちを、「こいつらは人として最低である」と断罪するだけではもったいない本。
なぜ彼らは悪に手を染めたのか?そもそも、彼らを悪に染めた本当の原因は何なのか。
テーマはかなり深いと感じました。勧善懲悪の話ではなく、物事の裏側にあるものに目を向ける視点を養える物語です。
本書を読めば世の中は重層。安易な「正義マン」にならないよう、気をつけたいところです。