なぜ私達は「ここではないどこか」で自分探しをしたくなるのか?『自分探しが止まらない』を読む

自分探しが止まらない (SB新書)

「今のオレは、本当のオレじゃない!きっとどこかに、本当のオレがいるんだ!」

と気持ちが高ぶったときこそ冷静になりたい。

速水健朗著『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)の読書感想です。

この本について

自己啓発本を読みあさること、東南アジアへの貧乏旅行に行くこと。

「今のあなたは、本当のあなたではありません。もっと良い、あなたが見つかりますよ!」と誘惑するネット上の広告。

至るところで、「自分とは何のか」という問いに興味を持つ人々が増えているようですが、なぜ自分は今ここにいるのに、自分をわざわざ探しに行く必要があるのか?

その謎を考察するのが本書。自分探しを止められない人たちや、ブームになっている背景、仕掛け人など、様々な角度から、自分探しについて迫ります。

以下、気になった内容の要約です。

自分探しとは(P3)

「若者を中心としたした人々が、現在の自分ではなく、本当の自分を知ろうとしたり、あるべき自分の姿を求めたりする行為」のこと。

外で自分を見つけるか、内から自分をみつけるか(P4)

自己啓発には、

1・海外に旅に出たり、ボランティアをすることで、外の世界で自分を見つけ出そうとする外的自分探し

2・自己啓発書を読みあさったり、占いやスピリチャルに自分の本当の姿を見つけ出そうとする内的自己探し

この2つのタイプがある。

自分探しのとらわれ方が変化した!(P17)

もともと自分探しというと、良い年をした大人が、ある日社会的な責任を全て放棄して、突飛のないような行動をするような、ネガティブな意味合いを持っていた。

しかし、近年は、人気スポーツ選手(サッカーの中田英寿や、ボクシングの須藤元気など)が平然と輝かしいキャリアを捨て、自分探しをする姿に、多くの人が共感するようになった。

自己啓発本と自分探し(P39)

自己啓発書は、ある悩み(仕事・お金・恋愛のほぼ3つ)を持つ人に対して、前向きなコトバを提示し、ポジティブ・シンキングへと誘導。「あなたはあなたのままでいい」という承認を与える。

自己啓発書の仕組みのツボは、「あなたはあなたでいいんだよ」という承認。

「今の自分はダメ」→「ポジティブにとらえよう、だってあなたはOKなのだから」という手法が、自分探しをする人に支持されているのかも。

自分探しは青い鳥を求めること(P61)

自分探しは「新しい自分、ここにはいない自分」を探すこと。それはある種の変身願望であり、「ここではないどこか」で見つかるかもしれない、漠然としたもの。

「今いる自分」を、「今ここ」で変えようと努力することはせず、環境に自分を変えて欲しがっている。これが自分探しの正体。

猿岩石のヒッチハイク人気から見えるもの(P100)

日本経済の成長と発展で、様々なことがデジタル化されていき、サラリーマン的労働観、働くこと、それによってお金を得ることの現実感が薄れてきた。

「労働の対価としてお金を得ること」という現実感が薄れ、働くことの意味、労働の意味が感じられない世界になりつつある。

旅をしながら仕事をしてお金を得る。こんな単純な労働は、仕事に対して不安を持つ世代の胸を熱くした。

若者がフリーターになる原因(P108)

若者がフリーターになってしまうのは、「非正規雇用を増やしていきたいという企業側のせいだ!」という意見がある一方、若者側の変化もある。

現代の若者は、仕事に対して「やりたいこと」を大事にする傾向が強く、フリーターを自発的に選ぶ若者も、それぞれの大義名分を持っている場合もある。

アメリカン・ドリームが格差を作る?(P134)

誰もが努力と運で大きな成功を得ることができるアメリカン・ドリーム。これが意味するのは、勝者の背後には無数の敗者がいるということ。

アメリカが格差社会なのは、アメリカン・ドリームという価値観が背後にあるから。

失われる仕事のやりがい(P135)

現代は、仕事自体のやりがいが奪われている状況。

低賃金で不安定な労働環境という問題を別にしても、仕事のマニュアル化、IT化が進むことによって、個人の裁量権がますます奪われている。

仕事に自分の意思やアイディアを差し挟む余地はなくなっているのが現状で、ロボットのように、決められたことを決められたとおりにやる仕事にやりがいを持つことはそもそも難しい。

なぜ企業の仕事がマニュアル化されていく化というと、マニュアル化すれば、人材の確保が容易だから。安い賃金で人を雇うことができ、しかも簡単に代替できるから。

企業的にはコストの必要な人材より、「取り替えができ、安い給料で働いてくれるアルバイトや契約社員」の方がいいのが実情。

いつでもクビにできるし、昇給させる必要もない。だから現代社会は、仕事自体やりがいの持てないものが多いことを、若者はうすうす感じている。

「やりがい」を求める若者は、「やりがい」のある仕事を得られず、自分探しにさまようことになる。

感想など

自分探しを単純な青い鳥症候群だけでなく、現代社会の変化の面からも考察した、刺激的な本で、面白くて集中して読んでしまいました。

最初は、「自分探しなんてダメだよ」的な本かなと思っていたのですが、なぜ自分探しにハマる人が増えているのか、日本の労働観はどのようになっていくのか、扱わているテーマは幅広いです。

個人的には、自己啓発本のルーツや、いろいろ香ばしい評判の自己啓発セミナーと自分探しの話、猿岩石とフリーター論など、勉強になることが多かったです。

本の購入はこちら