「オレ様」が増える世の中を理解するためのキーワードは成熟拒否と万能感。『一億総ガキ社会』を読む

一億総ガキ社会~「成熟拒否」という病~ (光文社新書)

モンペにクレーマー、オレオレ人間が増える要因は幼児的万能感と資本主義的消費社会が原因?

片田珠美著『一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病』(光文社新書)の読書感想です。

内容について

モンペやクレーマー、自己中心的なオレオレ人間など、他責的、何でも人のせいにして多くの人に迷惑をかけ、挙句社会の秩序を乱す困った人々の姿と、そのような人間が増加する現状について分析している本。

クレーマーや、周りの「困った人」の心理を勉強できる内容になっています。

以下、本書の気になった内容の要約です。

理想と現実のギャップを認められない人々(P3)

打たれ弱い子ども、不登校、大人の新型うつなどの問題に悩む人々は、現実の自分と理想の自己像が乖離している人々

「こうありたい」と願う理想的な自己像と、現実の自分の姿が大きくかけ離れているにも関わらず、「自分はやれば何でもできるんだ」というような幼児的万能感を抱えているために、現実を認めることができない。

打たれ弱くすぐに人のせいにする人の特徴(P7)

打たれ弱く、問題が起これば何かと人のせいにする他責的傾向を持つ人、何かに依存していなければ落ち着かない人には共通点がある。それは、「自分は何でもできる」という幼児的万能感を強く持っている人。

大人になり、人として成熟していくことは、自分ができることを知りつつ、できないこと、あきらめなくてはいけないことを認める喪失体験を経験している。失うことによって、自分の限界を知り、それによって、大人としてのバランス感覚を獲得できる。

しかし、中には大人になること、成熟することを拒否し、子どものようなファンタジー世界にとどまり続けようとする人もいる。彼らは自分の万能感を維持するため、問題の原因を他者に転嫁する。

親が子どもに期待することの本当の意味(P32)

子どもにスポーツをさせたり、ピアノを習わせたり、塾通いさせて猛勉強させるなど、親が子どもに押し付ける期待は、親自身の劣等感が原因。

自分の学歴に劣等感を持つ教育ママは子どもを猛烈に勉強させ、自分がスポーツ選手として活躍する夢を持ち挫折した親は、子どもをスポーツクラブ通いさせ、厳しい訓練をさせる。芸能人に憧れつつそれが叶わなかった親は、自分の子どもを芸能事務所に入れる。

これらの行為は、親自身が果たせなかった夢を子どもを通じて実現させようとする代償行為であり、子どもの幸せを願ってやらせていることではない。子どもを通じて、親自身が劣等感を消し、親自身が自己実現したいがための利己的な行為

父性の消滅の代償(P40)

現代社会は、子どもの存在をまるごと容認する母性が強い社会であり、子どもは親から自己愛や万能感を投影される。誰もが、「無限の可能性がある、やろうと思うことは何でもできる」というような万能感を刺激される社会のため、理想と現実が乖離しやすい。

この万能感の誇大化を抑制する手段が父親的父性。「これはダメ、してはいけない」という子どもに制限と抑制を教えるのが父性だが、日本ではこのような父性が消滅しつつある。

子育てでも母親が中心で、厳しい父親は消えつつある。結果、子どもはますます自己愛と万能感を刺激されていく。「なりたい自分」という自己愛だけが誇大化し、やがて理想と現実のギャップを受け入れられなくなってしまう。

ストレスに弱い温室育ちの「心が折れやすい」子どもたち(P51)

子どもに不必要な危険を経験させる必要はないが、親が何でも子どもに手取り足取りしてあげるのは危険。子どもが自分で行動し、その結果失敗しても、自分で反省し、立ち上がらせるような小さなトライ&エラーを経験させてあげる

親が子どもが傷つかないように、あれこれ問題を予防してあげると、結果的に子どもは失敗を経験できず、ストレスや失敗に対する耐性がつかない。そのことによって、

1・感情のコントロールができずすぐにキレてしまう。

2・欲求不満になりやすく、攻撃のはけ口をいじめなどの卑劣な行為で発散する。

3・不登校や引きこもりなど自分の殻にこもってしまう。

などの問題行動を起こしやすい子どもに育ってしまう。

新型うつの人は他人を攻める(P69)

従来のうつ病患者とは少し違うのが新型うつ病の患者。特徴は他責性であり、「自分は悪くなく、問題は他の人にある」と考える人が多い。

彼らは、自己イメージが現実と乖離しているにも関わらず、それを認めることができないため、人を攻めることで自分の自己愛を守ろうとするのが特徴。

モンペについて(P78)

学校に非常識なクレームを出し、関わる人を不幸にするモンペ。彼らは我が子万能主義的な歪んだ視点でしかモノを見ることができない人たちなため、「誠意」が仇になることも多い。

彼らの基本的な考えは、「我が子は100%正しい。だから間違っているのは学校だ。」という考え方。根本には歪んだ自己愛と他責的な思考がある

「我が子は完璧な子ども(パーフェクトチャイルド)なのだから、我が子の完全性を損ないたくない。だから悪いのは他の人だ。」というのがモンペの思考。

子どもの虐待について(P89)

地域社会が崩壊し、核家族化が進むようになり、子育ても地域からそれぞれの家庭で孤立して行われるようになった。そのようななか、母親たちは孤立して子育てをするようになり、周囲のサポートを受けられないまま、自分の「思い通りにいかない」子育てをしている。

言うことを聞かない我が子に腹を立てて、虐待をしてしまう親は、「世の中には思い通りにいかないことがたくさんあり、自分で出来ることとできないことがある。」ということを受け入れられない万能感を持つ親。

院内暴力の背景には未成熟な大人たちが(P98)

モンペだけでなく、病院に理不尽なクレームをつけたり医者や看護師に暴力を振るうモンスターペイシェントも、本質的には同じ。患者が好き勝手する背景には、「自分はえらく、何をやっても許されるのだ。」という、幼児的万能感を持つ大人が増えたから。

こういう人に対応するため、医者や看護師は患者に対し自己防衛的にならざるを得ず、そこがまた、医者と患者の難しい関係を作っている。

プライドが高い人はこんな思考(P109)

「有名大卒→有名企業就職」というような失敗や挫折を経験していない人、プライドが高い人は、問題が起こると、原因を周囲のせいにする傾向があるが、これは、自分の万能的イメージを守りたいがための行為。

「エリートコースを歩み、仕事もできる優秀な自分」というような自己イメージがあるため、問題が起こったとき、自分のイメージを壊したくない。だから人のせいにし、自分のイメージを保つ。

「人のせい」にする人が増えた原因(P111)

人のせいにする、他責的な人が増えたのは、文明が発達し、消費社会になったから。人々が物質的な充足と、自由を享受できるようになったから。

物が溢れ、いろんなサービスを利用できるようになった結果、いろんな考え方が生まれ、今まであった「こうあるべき」社会規範、公的な模範が消えた。

物質的な豊かさが人類の進歩と考え、日本人は物質至上主義、経済第一でやってきた。経済が発展、物が溢れるようになり、人々は「誰もが豊かになれる、人生の可能性を自分で拓ける」と思いを持つようになった。

そんななか、自己実現や自分探しの大切さが説かれるようになったが、自分で生き方を選択するようになった人々が、外部の規範を守ることを選択することはなく、生き方の規範を、もっぱら個人の内部に規範を求める必要性が生まれた

結果どうなったかというと、「こう生きるべき」という自分らしい生き方を追い求め、同時にその生き方を他者から承認されたいという、「自分を認めて」的な意識も生まれがち。

社会の規範という外部の枷を否定しつつ、自分らしい生き方を追い求める。彼らは「社会のルール?そんなものは知らない。私はこういう風に生きるから。」という人なので、他者を否定し、自分を肯定する。当然、利己的な人、他責的なクレーマーも増える。

我が子を勝ち組にさせたい親(P148)

今は世の中が変わり、誰もが経済的、将来への不安を抱えるようになっている。雇用環境、お金のこと、多くの人が不満や不安を感じている。今の時代は「自分の暮らしが良くなる!」という期待より、「これからもっと悪くなるかも・・・」という不安の方が強い。

このような不安から、一部の親は、我が子を「勝ち組」に入らせようと、お受験やら、スポーツやらを強制する。これは子どものためを思った行為ではなく、「自分はこれ以上成功出来そうにない。だったら子どもを勝ち組にさせるためにあれこれやらせよう。」という親の考えから

消費社会のウソメッセージ(P153)

消費社会は競争社会であり、拡大社会。誰もがお金を使い、稼ぎ、競争し、経済が発展していく。「この競争で勝ちたければあきらめるな、上を目指せ」というメッセージに私達は踊らされ、現実的な視点を忘れがち。

我々は人間であるので、限界もあるし、できないこともある。自己愛を刺激され、誇大化させられやすいのが消費社会。あきらめることもあるし、ダメなこともあるのだから、現実的な視点を忘れてはダメ。

大人になることはいろんな幻想を手放すこと(P178)

したかったけど無理だったこと、頑張ったけどダメだったことを認めるのは苦しいこと。時に、言い訳をしたり、「まだまだできる、あきらめない!」と強がることもある。

しかし、自分が無理だったことは事実として受け止め、出来ること、出来ないことの検証が必要。大人になるというのは、自分の現実を理解できる人になるということ。

あきらめたほうがいいこともある(P239)

自己啓発にありがちな、「思いは何でも実現する、努力すれば何でも実現できる、だから絶対あきらめるな!」的な考えは、幼児的万能感に基づく考え方。

世の中、実際頑張っても無理なことはあるし、さっさとあきらめた方がいいこともある。かりに、あきらめたくないことがあるのであれば、あきらめないことによる代償をきちんと引き受けるべき。

思うとおりにいかない苦しみ、自分の能力への疑念など、上手くいかない原因を人に求めず、あきらめずに固辞し続けることによる代償を受け止めよ。

人生どこでどうなるか分からない、だから(P245)

挫折、失敗を経験していない人は弱い。スイスイと人生の階段を上がっていった人が、ある段階で失敗し、その挫折が致命傷になってしまうことが多い。この原因は、若い頃に失敗や挫折を経験していないから。

失敗や挫折に耐性がない人はもろい。だから、若いときはどんどん失敗し、耐性をつけることが肝心。挫折を経験せずとんとんと成功するのは、ある意味不幸

感想など

他人を攻撃せずにはいられない人』が面白く、著者の別の本も読んでみたいと思い、この本を選びました。

この本は「成熟拒否」や「幼児的万能感」などのキーワードをもとに、日本社会の幼児化する人々の分析を試みた本。専門的な内容にも関わらず、内容が面白く、購入して即読してしまうほど、夢中になって読んでしまいました。

何かにつけ誰かを攻める人、問題が起きたとき人のせいにして自分は知らん顔するような人、人間関係にはいろいろありますが、なるほど、自分の非を認めない人は、このような人たちなのかと納得。

しかし、社会が発達し、物が豊かになり生活が便利になるにつれ、人間関係がギスギス、人がそれぞれ孤立していくのだとしたら、現代は、難しい時代なのかもしれません。

夏目漱石が、『こころ』で「自由と独立と己とにみちた現代に生まれた我々は、その犠牲としてみんなこの寂しみを味わなくてはならない」という言葉をのこしていますが、至言だと思います。世の中、いろいろ難しいものだと思います。

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