デビューからスピーチ、村上春樹の未発表&未収録エッセイをこの本で。
『村上春樹 雑文集』(新潮文庫)の読書感想です。
この本について
小説家の村上春樹さんの未発表&未収録エッセイをまとめた本。
デビューから書きためてきたオクラ入りとなった原稿やスピーチなど、様々なエッセイを楽しめる内容になっています。
以下、本書の読書メモです。
小説家になって(P75)
小説を書き始めたのは29歳の頃。
元から小説家になる気持ちはなく、小説家として成功できたことは大きな驚き。でも、小説を書くこと、文章を書き続けることは自然な行為のように感じられる。
「就職したくない」という理由から(P112)
大学在学中、結婚し、ジャズ喫茶を始める。大学に7年在籍するものの、就職する気はなし。ジャズ喫茶を始めたのも、好きなジャズをずっと聴いていられるから。
仕事をしながら1日中好きな音楽を聴く、そんな生活が理想的だった。小説家になることなど、夢にも思っていなかった。
「ノルウェーの森」のネタ(P141)
ビートルズの歌であり小説のタイトルとなった「ノルウェーの森」のネタ。
ジョン・レノンが考えたノルウェーの森=Norwegian Woodのもともとのタイトルは”Knowing She Would”という思わせぶりなものだった(歌詞はIsn’t it good, knowing she would?)。
が、それではイメージ的にまずいということでレコード会社からクレーム、語呂合わせでNorwegian Woodになった。
ひたむきさが道を究める力に(P215)
音楽でも小説でも、何か一つのことをひたすらクリエイトしていくことはとても大変なこと。
前向きな姿勢、探究心がなくなってしまったら、生み出される作品から深みや力は消えてしまう。初心忘れるべからず、ひたむきに挑戦を続けることが大切。
道を失う時期(P227)
人生には、何をやっても上手くいかない、どれだけ考えても良い考えが浮かんでこない、どこへ進めばいいのかも分からない、自分が孤独で空っぽのように思える時期がある。
程度の差こそあれ、みんなそんな時期がある。かのジョン・レノンもそういう時期があった。村上春樹にもあった。
スコット・フィッツジェラルドと『グレイト・ギャツビー』(P336)
20世紀初頭のアメリカ、時代の寵児として活躍した小説家、F・スコット・フィッツジェラルドについて。
スコット・フィッツジェラルドはイケメンで好青年だが、それ以外の取り柄のない普通の青年だった。コネも財産もなく、プライドは人並み以上。
そんな彼がある金持ちの娘、ゼルダと恋に落ちる。ゼルダは結婚の条件を経済力と宣言、スコット・フィッツジェラルドは彼女を射止めるため、小説家として成功する。
小説家として成功、スコット・フィッツジェラルドはゼルダと結婚、彼女の希望を叶えるため派手な生活を送る。そのときアメリカは史上空前の好景気、幸せな生活がいつまでも続かのように思えた・・・。
しかし大恐慌によってアメリカ経済が暗転、それによって、スコット・フィッツジェラルドの生活も一変。二人は悲しい最後を迎える。
今も名作として読み継がれている『グレイト・ギャツビー』に登場する一人の女性を射止めるために巨富を求める男は、スコット・フィッツジェラルドそのものであり、アメリカの輝かしい時代のノスタルジーでもある。
スコット・フィッツジェラルドの最後は悲しいものだが、彼は書くことの力、可能性を信じていた。人生がどれだけ過酷なものだったとしても、文章に対する信頼感を終始失わなかった。
書くことによって救われる、創作による救済を最後まで信じていた。新しい作品を生み出すこと、その苦闘こそが、彼を導く明かりとなっていた。
村上春樹の仕事術(P368)
仕事は再優先課題から真っ先に片付ける。
小説を書いているときは朝早く起きて、頭がクリアな時間にまず小説の仕事を片付ける。やることをやったら、あとは自由に1日を楽しむ。
感想など
個人的に村上春樹さんの小説は『ノルウェーの森』くらいしか読んだことがないですが、
「ジャズ喫茶経営→野球場でふと小説を書いてみようと思う→仕事の合間に小説を書く→デビュー→人気作家に」
という経歴に興味を持って、この本のようなエッセイ集はよく読んでいます。
この本でも、村上春樹さんが小説家になったことを書いていますが、これだけ小説家として成功している人が「小説家になるなんて夢にも思っていなかった」と語っているのは本当に不思議。
これを読むと、人にはそれぞれ、やっぱり天職というか、相応しい仕事があるのかもしれない、そんな気持ちになります。
「雑文集」とタイトルにはありますが、個人的にはとても面白く、勉強になった本でした。