人生はまっすぐ進むのもいいが、ときに横道に入るとときに思わぬ宝物を見つけることもある。
河合隼雄著『より道わき道散歩道』(創元こころ文庫)の読書感想です。
『より道わき道散歩道』について
ユング心理学、日本の臨床心理分野の大家、河合隼雄先生のエッセイ集。
新聞に連載されていたエッセイを一冊の本にしたもので、子ども、人間関係、人生、本、音楽、文化・社会、道草の拾いもの、7つのテーマで、様々な示唆に富んだエッセイを楽しむことができます。
以下、本書の読書メモです。
人の成長のためには動かない時期が必要(P15)
三年寝太郎、三年寝姫の話。
人間には寝てばかり、動かないでだらだらしてしまう時期があるが、その時期は無意味ではない。
動かない時期、だらけるがあるからこそ、じっくり深いところで、成長が促されている。だから、何年も寝た後、大活躍、大躍進できる。
甘やかしと甘えの違い(P32)
食べ物や服、ゲーム、好き勝手物を与え、子どもの欲を安易に満たすのが甘やかし。甘やかしは、子どものためでなく、親が子どもの世界に干渉しているだけ。
子どもが必要な心理的なサポートを与え、必要なとき、子どもが安心して親により掛かえさせるのが甘え。
甘やかしと甘えは、全く違う。
お金で解決することの弊害(P47)
小さい幼児が親になんでも買ってとねだるとき、親はハッキリと子どもに「ダメ」と言うべきだが、子どもと対立することを恐れるがゆえに、「この子のため」と言い訳して安易に物を与えてしまう。
お金を感情の緩衝にして生身と生身の人間のぶつかりあいを避け、問題を解決しようとする傾向があるのが、日本人の子育ての悪いところ。
お金で問題を解決することで、本当に大切な問題から逃げている。
視覚と思考に基づく決断は失敗が多い(P53)
パートナーを選ぶとき、目で見たもの、頭で考えたことを頼りに決断を下すと、思わぬ失敗をしてしまう。
大切なことは、案外自分の動物的感覚が頼りになる。嗅覚や聴覚、触覚、そのような感覚の方が、案外真実を見抜いているかも。
必然と偶然の関係(P86)
多くの偉大な必然は、そのなかに不思議な偶然を包み込んでいる。途方もない失敗のなかに途方もない成功が内包されているよう、物事の背後には不思議なものがある。
個人主義の時代(P105)
世界はグローバル化が進み、個人が自己を主張する時代が来ている。
日本でも会社第一の集団主義から、自分のことを第一に考える個人主義的な人が増えているが、それも時代と環境の変化によるもの。
会社は頼りにならず、グローバル化によって競争は進む。個人主義の流れが加速し、自らの意見、態度を表示する必要がある世の中になっている。
待ちつつ希望する(P139)
モンテ・クリストの教訓。絶望のとき、チャンスが来るのを待つ。そして、状況が良くなることを希望する。待ちつつ希望するのがポイント。
感想など
肩のこらない、示唆に富んだエッセイが楽しめる本。
河合先生の本ははっきりと「これはこうだよ」とは断言せず、読者に察っしさせたり想像させたりする文章が多いですが、このエッセイも示唆に富んだ文章が満載。
断言しない、ソフトで想像力を刺激する文章が、読者の内面を刺激、知らず知らず心に染み入ってきます。
折に触れちょこちょこ読み返すと、自分の心の変化、成長が実感できる。何度も読み返したくなるような、そんな本です。