ゴッホが残した友人、弟への手紙を読む。
岩波文庫『ゴッホの手紙』の読書感想です。
この本について
天才作家として永遠にその名を残しつつも、生きている間は全く世間から認められず、非業の最期を遂げたゴッホの手紙をまとめた本。
上中下の全3巻、手紙はゴッホの友人エミール・ベルナールに送られたもの、そして弟のテオに送られたものが中心になっています。
手紙を通じて、創作活動に打ち込みつつも全く世間から評価されずにもがく、ゴッホのリアルな人生の軌跡を垣間見ることができる内容になっています。
感想など
個人的には、ゴッホの絵を生で見たことが2回あります。
最初は2010年オランダのアムステルダムにあるゴッホ美術館。2度目は2017年北海道近代美術館。
正直、ゴッホの絵を見てどこが具体的に良いのか。よく分からないのですが、なぜか、心にひっかかってくる、そんな不思議な魅力があります。
それで、ゴッホの人生について基本的な話を理解しつつも、実際ゴッホがどんな人だったのか。どんな暮らしをしていて、どんな悩みを持っていたのか。
それを知りたいと思って、本人が書いた手紙をまとめた、本書を読むことにしました。
中と下、弟のテオに送られた手紙の書き出しはいつも同じ。「お金を送ってくれてありがとう」というお礼から始まり、ゴッホの生活。考えていることが綴られています。
この手紙を読めば、ゴッホがいかに芸術に誠心誠意、取り組んでいたか。魂をかけて創作していたかが伝わってくるのですが、だからこそ改めて思います。
なぜ、生きている間に評価されず、死した後、評価されることになったのか、ということを。
手紙を読むと分かるように、実際のゴッホの暮らしは、弟のテオの支援なしには成り立たないもので、自分の絵が売れずお金にならない。誰も自分の絵の良さを理解してくれない。
そんな状況で創作を続けることは、とてもすごい話だと思います。そう考えると、私のような凡人にも、
すべての芸術家、詩人、音楽家、画家たちが物質的に不幸なのは確かに不思議な現象だ。
中、P127
と語るゴッホの心情が、少しでも想像できる気がします。
ところで、ゴッホは日本に関心を持ち、その作風に影響を受けたと言われていますが、本書では何度も、日本についての記述が登場します。
日本人は再現の抽象化をやる、平面的な色彩を並列させて、動きや形を独特な線で捕らえる。
上、P108
といった表現的な話から日本に行ったことを想像する話まで、なぜゴッホが日本のことを何度も言うのか、気になって調べてみました。
すると、ゴッホが日本の版画芸術を熱心に集めていたということを知りました。
ではなぜゴッホが日本のことを知るようになったのかというと、19世紀後半、ヨーロッパでジャポニズムが流行、それがきっかけで日本に興味を持ったよう。
絵のことはよく分かりませんが、なぜゴッホの絵を見てなんとなくなつかしい感じを覚えるのか?
それはもしかしたら、ゴッホが影響を受けた「日本的なもの」に、無意識に反応しているからかもしれません。
今回、この手紙を読んでみると、改めてゴッホという人間に興味を持ち、かつ親近感を感じます。
よりゴッホの人間的なものを感じたい方は、この手紙で、それを感じることができるでしょう。