平安時代の権力者の実像がこの本で。『藤原道長の日常生活』の感想

藤原道長の日常生活 (講談社現代新書)
今からおよそ1000年前。日本の政治権力の中枢を支配し、「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」(この世は自分のためにあるようなものだ。満月のように、何も足りないものはないだぞ)とまで歌った男。それが藤原道長。

藤原道長とは

大化の改新で有名な中臣鎌足から始まる藤原家の権力を頂点まで導いた、平安時代の政治家。紫式部の有名な『源氏物語』の主人公、光源氏のモデルとも。

日本を(実質的に)支配し、全てを手に入れた男。富、名誉、女。

「さぞ最高の人生だったんだろう、いい思いをしたのだろう」とハタから見ると思うのですが、実際には、「バラ色の人生ではなかった」というのが分かるのが本書。平安時代の権力者の性格や日常生活を、残された文献からあぶり出す一冊です。

藤原道長の日記である「御堂関白記」を始め、この時代に書かれた日記である「小右記」や「権記」などをもとに、藤原道長の実像を公私に渡って詳細に分析、時の権力者の生の姿が描かれています。

藤原道長と言えば、満月の歌の通り、「全てを極めた、栄華を味わった」人物としてのイメージが強いのではないでしょうか。しかし、この本を読むと、実際には感情の揺れ幅が大きく、泣いたり怯えたり、権力者の「小心」な心が見えてきます。

もともとは、権力者になるのに遠い位置からスタート、兄弟たちの死によって棚ボタ的に権力者への道が拓けた道長。しかし実際には「チャンスは逃すまい、しかし権力を失うのが怖い」という、権力者が持つ苦しみが感じられます。

上に立つ人間にはそれ相応の不安があるのか、道長は小心さと大胆さ、勇気と臆病、寛容さと残忍さ、このような相反する複雑な感情を持つ人間であったことが感じられます。「最高権力者も一人の人間だった」そんなことが分かります。

また、この本では当時の平安貴族たちの生活の様子も書かれています。

「貴族」と聞くと、働かず、酒池肉林の世界を想像しますが、実際はハードワーカーだったようで、その労働は朝から晩まで続く大変なものだったようです。公的な会議に加え、季節ごとや種々のイベント、貴族同士の歌会など、多忙な様子が分かります。「やんごとなきお方」たちも、ラクではなかったようです。

当時の平安貴族の生活がリアルに伝わってくる面白い本でした。

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